表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

下った天啓

 その瞬間――太った男は飲んでいた酒を噴き出し、驚いた顔を見せた。

「な……っ!? んなバカな!」

「何で弾が出ねえ!?」

「え、だって弾、全部……」

 この言葉を聞いた瞬間、彼はあらゆることを理解した。

(全部、実包だったのか……!

 こいつらは、俺を何が何でも殺そうとしていた! しかも、俺の自殺に見せかけて! 自分たちには何の罪も無いと言いつくろおうとして!

 こいつらは悪だ! 邪悪だ! 悪魔だッ! どうしてこんな奴らに、俺が、俺の妻が、俺の娘が、兄が、弟が、妹が、両親が、村のみんなが殺されなければならなかった!?

 ……! そうか……! 神よ、そうだと言うのか!?)

 瞬間――彼は撃鉄を起こし、目の前の豚に向けて引き金を引く。

 先程の不発弾と違い、今度はちゃんと弾が発射され、豚の顔面を撃ち抜いた。

「ぼげーッ!?」

 鼻だったところにぽっかりと空いた穴から不気味な悲鳴を上げ、豚は仰向けになって倒れる。

「ぼ、ボス!?」

 手下たちが慌てふためいたその一瞬も、彼は逃さなかった。残っていた4人の手下に、彼は一発ずつ、正確に、ほんの少しの動揺も無く、弾を撃ち込んだ。

 全員があっけなく死に、彼一人になったところで、彼は英語でもフランス語でも、スペイン語でもない、かつて自分の村で使っていた言葉で、こうつぶやいた。

「(6発の弾。1発は俺を生かした。残った5発の弾。悪魔は丁度、5匹いた。

 神は俺に、こいつらを殺せと命じたのだ。でなければどうして俺は生き残った? どうして弾は5発残っていた?

 そして今、確信した。俺はこいつらを、白い豚共を殺さねばならない。それが宿命、運命なのだ。

 ……そして神の言葉を聞く限り、俺は死なない。こうして博打で生き残ったことこそが、その何よりの証拠だ。

 神の言葉は、博打と共にある)」




「……おい! おい、って!」

「ん……」

 アデルが何度か声をかけたところで、「羽冠」は顔を挙げた。

「おい、起きろよ」

「すまない。酒が回った。眠った、少し」

「戻って来たぞ、エミルが」

「そうか」

「羽冠」が目を覚ましたところで、エミルはテーブルにダイスを置いた。

「次はこれで勝負よ。ダイスを投げて、その数の合計で競うの。

 ただ、次のルールを加えるわ。まず1つ目、ダイス3個のうち2個が同じ目になったら、合計の2倍。2つ目、ダイス3個とも同じ目が揃ったら、合計の3倍。

 そして最後に、1の目が3つ揃った時は、合計を55(6のゾロ目×3=54より1つ上)とする。オーケー?」

「ああ」

「勝負は1回ごとに清算。それじゃまず、あたしは100ドル賭けるわ」

 この額を聞き、アデルは目を丸くする。

「いいのかよ?」

「あんたと違って、あたしは貯金してるもの。それくらいのお金は持ち歩いてるわ」

「ちぇ、俺だって東部に帰れば貯金はそこそこ……」

 ブツブツつぶやくアデルをよそに、エミルは「羽冠」に尋ねる。

「あんたが負けたら、その場で連行。これでいいわね」

「いい」

「それじゃあたしから振るわよ」

 エミルはテーブルに置いていたダイスをつかみ、掌の上で軽く振る。

「それっ」

 カラ、カラン……、と小気味のいい音を立て、ダイスは皿の上に落ちる。

「……」

 エミルが出した目は、1・3・5。合計は9である。

「おいおい……」「ああ……」

 あまりの出目の悪さに、アデルもマギーも苦い顔をしている。

「ま、様子見だから。

 さあ、次はあんたの番よ」

「分かった」

「羽冠」もダイスを握り、そのまま手を離して皿に落とす。

「……は!?」

 出た目を見て、アデルが素っ頓狂な声を漏らした。

「4・6・6、……16の2倍、32」

「……完敗ね」

 エミルは肩をすくめ、100ドルをテーブルに投げた。


 その100ドルをつかみながら、「羽冠」はエミルたちの知らない言葉でこうつぶやいた。

「(……やはり一片の紛れも無い。俺には依然として、神が味方しているのだ)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ