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博打とオカルト

 この国で合法的な賭博場、即ち「カジノ」が造られたのは1930年代はじめ、ネバダ州においてのことであるが、当然それ以前にも賭博は広く行われていた。


 そもそも「賭博」というこの行為自体は、この大陸に欧州からの移民が来るよりもっと昔から、世界のあちこちで行われている。

 ちなみに賭博のはじまりは、占いであると言われている。賭博に使用されているダイスも、元は牛骨を使った占いを起源としている。また、トランプも元々はタロットカードに代表される占いの道具であり、これらのことからも占いと賭博との関係は、相当に深い。


 現在においても、「それまで吉か、あるいは凶であるのか分からないことが、数瞬の後にはっきりと示される」と言うこの過程は、占いにも、賭博にも、共通して見られる。

 占いと賭博は、非常に似通っているのだ。




「これで、私の、勝ち」

 たどたどしい英語でそう宣言された瞬間、男は頭を抱え、椅子から転げ落ちた。

「うっ……、そだろ……ぉ」

「まだやるか、ガン、……えー、ガン……マン」

「や、……やるに決まってんだろッ」

 男はフラフラと立ち上がり、何とかテーブルに着き直す。

「何賭ける、……マン」

「ガンマン! ガンマンだ、ド田舎野郎!」

「お前、もう違う」

 男の前に座る、派手な色をした羽を中折れ帽に載せた、その色黒の男は、ニヤニヤと笑っている。

「ガン、ここ。私、勝った。ガン、獲物」

「う……ぐ」

 男は挑発した「羽冠」をにらみつけるが、腰を探っても既に、相棒の姿はそこには無い。

「次は何、賭ける」

「……っ」

 男は腰から手を挙げ、自分の胸や尻のポケットを探ったが、1セントの金も出てこない。すべて「羽冠」に奪われたからだ。

「……ちくしょう」

 男は諦め、席を離れようとした。

 ところが――。

「チャンスやる」

「……あ?」

 背中を見せかけた男に、「羽冠」はこんな提案をしてきた。

「お前、まだ1つだけ、賭けるもの持ってる。

 お前の、命」

「なんだと……?」

「お前、命賭けるなら、私も、賭ける、それ」

「つまり、……お前も命を賭けるって言いてえのか?」

「そう」

 そう返すなり、「羽冠」はゴト、と男のものだったコルトをテーブルに置いた。

「負けた奴、頭撃つ」

「……やってやろうじゃねえか」

 男はもう一度椅子に座り直し――テーブルに散らばっていたトランプをばさっ、と払いのけた。

「だがもうポーカーは勘弁だ。こいつで勝負しようじゃねえか」

 男はコルトから弾を抜き取り、一発だけ残して弾倉を回す。

「こいつをこめかみに当てて、互いに一回ずつ引き金を引き合う。運悪く弾が発射されりゃ、そこでジ・エンドだ」

「いい」

 男の提案に乗り、「羽冠」は1セントをテーブルに置く。

「順番、これで決める。表、私。裏、お前」

「いいだろう」

 男はコインをつかみ、親指で弾いた。

 コインはぴぃん、と鋭い音を立てて、バーの天井近くまで上がる。そして落ちてきたコインを男がつかみ、再度テーブルに置いた。

「表が出たらお前が先に、裏が出たら俺が先に、だな?」

「そう」

「……」

 男は手を離す。コインは裏を向いていた。

「……行くぜ」

 男はコルトの撃鉄を起こし、銃口を自分のこめかみに当てる。

「頼むぜ……、相棒。俺のところに戻ってきてくれよ。

 俺ともう一丁、暴れ回ろうぜ。な?」

 祈りの言葉を愛銃にかけ、男は引き金を引く。




 パン、と火薬の弾ける音が、バーに響いた。

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