episode6「希望と絶望」
ケインに剣術を教わった日から六年ほどの月日が経った。
俺ももう十二歳だ。
ここ六年程はこれと言った出来事はなかった。
しかし、強いて言えば、最近は四人で森に行き魔獣やアンデッドを狩りまくっている。と言うことくらいか、旅に出るときに備えて連携の練習などをしている。
ところで話が変わるが、今俺は完全に行き詰まっている。六年前にケインに剣術を教えて貰った日に「すぐ父さんを超えちゃうかもね。」などとスカした事を言っておきながら『神速剣技流』みたいな我流の流派が全く思いつかない。
付着武器で武器に炎や雷を纏わせて剣を振っているだけでは、魔法を纏いながら攻防剣技流や流反剣技流をやっているのと一緒だ。これでは我流の流派とは呼べない。
「ヴァンー、ジン君達きてるよー」
「はーい。すぐ行くー!」
考えていても仕方がない。戦っていればそのうちヒントになるものがあるだろう。
ということで、いつもの低級魔獣がいる森にやってきた。
魔獣の種類は四つある。低級魔獣、中級魔獣、高級魔獣、そして超級魔獣。いつもの森は低級魔獣しか、いないので俺たちでも十分に戦える。
「さて!じゃあ今日も頑張るわよ!」
「めんどくせえなぁ、ふぁ〜、寝みぃ。」
「オイオイ、いくら低級でも油断してたらあっという間に死んじまうぞ?」
「そうだよー、やる気だそうよ!」
と、いつものように漫才みたいなことをやっていたら。
「グラァァァッ」
「散開!」
「牙狼だ!いつものフォーメーションでいくぞ!」
「オッケー!」
「了解!」
「おう。」
じゃあまず、落雷!!
「天地雷鳴 雷の力をこの右手に落雷!!」
ゴオオオオン!!!
「ギャウッ」
俺とサクヤの右手から放たれた雷は、魔獣に直撃した。そして魔獣が痺れて怯んでるうちに
「ジン!ミカ!」
「おう。」 「ええ!」
「一刀両断流」 「百花繚乱流」
「斬!!」 「花弁!!」
「ギャウァァァァア」
「ズシンッ」
目の前に魔獣だったものが倒れた
「ふぁ〜、弱えな」
「まあ、低級魔獣だからな。」
「でも、弱すぎよねぇ。」
「確かにあんまり歯ごたえないね。」
俺はともかく、こいつら三人は自惚れてこんな事を言ってるのではない。本当に強すぎるんだ。
ジンとミカは八歳の時すでに、我流を習得。
サクヤは水、自然、雷、風、治癒の五つの魔法を使える。俺を始め『神童』と呼ばれているやつらだ。
こんな雑魚では、つまらないのだろう。
しかし、これは連携の練習だ。いきなり強い敵と戦っては練習などできない。
そんな事を思っていた時。
「んん〜?なんだこの子達、美味そうじゃん」
振り向くとそこには。
黒と赤の目。鋭く尖った牙。そして黒のマント。
高級魔獣『吸血鬼』
「距離をとれ!!」
どうする?もう逃げるのは無理だ。なら!!
「全力で行くぞ!!!」
「森羅万象 森林の力をこの右手に 蔓の鞭!!」
吸血鬼の体に蔓が巻き付いた。
「お?」
そこに全力の『灼熱弾』『落雷』
ヴォォォォオ
ゴオオオオン
凄まじい轟音と共に特大の灼熱弾と最高威力の落雷が放たれた。
そこに間髪入れず、
「一刀両断流奥義」 「百花繚乱流奥義」
「剛断!!!」「春麗!!!」
大地を分かつ斬撃と、花が舞うような斬撃が魔獣を切り裂いた。
ハズだった。
「んん〜ガキにしちゃやる方だが、まだまだ青いな」
「フンッ」
「グァァァァア!」
「ジン!ミカ!」
ジンもミカも気を失っている。
まずい。このままじゃ全滅だ。どうする、逃げるか?
いや、そもそもこの状況で逃げれるのか?誰か殿をしないと逃げることはほぼ不可能だ。しかし、殿を務める場合、まず命はない。嫌だ。せっかく異世界転生できたんだ。死にたくない。
でも、この三人を死なせることはもっと嫌だ。
俺は誓ったんだ。もう、逃げないと。
なら!!!
「サクヤ!二人を連れて逃げろ!!!」
「えっ、そんなの、できるわけないじゃん!」
涙目になりながらサクヤは叫んだ。
「早く行け!!!このまま全員死んでもいいのか?!」
「う、うう、」
「威風堂々 風神の力よ 今こそ我に力を与えたまえ 風の運び手」
凄まじい風と共に、三人の体が浮かび上がった。そしてそのまま移動を始めた。
「逃すとでも思ってんのか?」
「いや、あいつらは逃してもらうぜ。アンタの相手は俺がしてやるよ。」
俺の今の最高威力の技、食らいやがれ。
炎と雷の混合魔法。
「灼熱雷!!!」
「この魔力、マズーーー」
吸血鬼が何かを言いかけたところで落雷のように炎が激突した。
「グッ、この野郎、痛えじゃねえか。」
吸血鬼の左半身が焼き切れている。
「だが、俺は不死身だ。こんな攻撃は、ホラこのとうり」
一瞬で治った。くそっ、どうすればいい。
「次はこっちからいくぞ。」
速ッ
ザクッ
「グアァァァァァアッ」
くそっ、「治癒」
「はぁ、はぁ、」
「まあ、所詮はガキだな。魔力は凄いが、まだまだ未熟すぎる。」
「じゃあな。」
まだ、俺は、死にたくねェ
魔力を最大まで…!
「ハァァァァァァァア」
「なっこの魔力ッ」
何だ、眼が熱い、焼けそうだ。
「グゥッ」
「ガァァァァァア」
「くっ、死ねェ!」
何だ?遅ェ
ヒュイ
「バカなッ」
動きが遅く見える。
「灼熱弾」
「なッ、グアァァァァァアッ」
何だ今の、今までの最高威力の三倍は出てたぞ。しかもほとんど威力を込めてない。すると吸血鬼が驚いた顔で
「お前、まさか、その眼、龍王眼か…?」
龍王眼?さっきから目が熱いと思っていたら、眼に変化が…?
「知らねェよ。でも、気分は悪くねェ」
「とりあえず俺はお前を殺し、みんなのとこに帰るだけだ。」
「くっ」
突然、眩い光が発せられ、目が眩んだ。
「強い魔力の反応はここか。」
俺がさっきまで戦っていた、吸血鬼とは違う声がする。
「バ、バルタザール様…!」
すると、吸血鬼が情けない声をあげた
「お前はもう戻れ。後は私がやる。」
ようやく眼が視えるようになって来た。
そこには、二メートルくらいの長身に銀髪の髪をオールバック風にまとめた、吸血鬼が立っていた。
「ほう。龍王眼か珍しいな。だが、まだ始龍か、それでは私には勝てぬぞ。」
クソッ分からないことが多すぎる。始龍?龍王眼?こいつは誰だ?
「龍王眼のことを知らないか。ならば教えてやろう。」
?!
「まさか、今俺の心を読んだのか?」
「そうだ。」
マジかよ。信じられねえな。
「では、まず私の名前は『バルタザール・ヴィラヘッド』吸血鬼の三長の一人だ。三長とは、吸血鬼には群がある。それを仕切っている三人の吸血鬼のことだ」
「続いて、龍王眼とは、かつて世界にいた龍王の眼のことだ。高い魔力に反応し、そのものの眼に龍王眼が宿るとされている。そして最後に、始龍のことだ。龍王眼には段階がある、始龍、そして覚醒状態の眼、終焉の龍だ。終焉の龍の眼には名前が与えられる。これでわかったかな?」
大体はわかったが、なぜそんなことを俺に教えるのだろう。
「フッ、なぜ教えるか?フハハハハハ」
吸血鬼の長は高らかに笑い声をあげた。
「私も龍王眼所持者だからに決まっているだろう。」
え、今なんて、
「終焉の龍!!!」
「これが私の眼だよ。」