私の猫生をお送りします
本日、この国では異世界からの聖女様が召喚された。
私も王宮の秘密の広場でその瞬間を見つめる。召喚されたのは、この世界にはいないはずなのに知っている、女子高生っていう存在だった。
……わー、これ見たことあるわー。画面越しにだけどー。
それは何だったか忘れたけれど、乙女ゲームというもので、こんな感じで召喚されてバトルしたり恋愛をするものだった気がする。
バトルは楽しかったから何度もやった気がする。だから基本はノーマルイベントにしか行ってなかったっけ?
とても懐かしい記憶を掘り返しながら王宮に住んでいる魔獣、けれど外見は普通の猫と変わらない私は欠伸をした。
どもども。前世は人間。今世は猫。
うわマジかよ。神様ひどい。と思ってるカルラです。
前世で人間として生きた私は断言できるんですよ。猫の生活とか、本当に苦痛で……。だってネズミ食べれないしてかまずナマモノとか無理だもん。
性別はメスで会話ができるというのは許すとしましても、やっぱり食が……魔獣という存在だとわからなかった時期は貧しくてお腹が空きましたよ。
「なので、今世でも人間のお前らが許せん」
「……完全なる八つ当たり乙」
「てかお前がなんで侵入してきてんだよ」
王宮の奥。勝手な入室禁止の書庫室には前世でそれなりに縁があった友人たち。勿論記憶はあり。
ここの書庫の管理を任せられているロレンツはため息を、あるお嬢様の護衛をしているルイーザはお菓子をバリバリ食べる。あ、それ私も食べたい。
食べようと口を近づけると、狙っていたお菓子が取られた。ルイーザによって。
「返せ私のお菓子!!」
「お前のじゃねーだろ!遅いのが悪い!」
「うっさい黙れ!!」
「まだあるんだから騒ぐなお前ら!!」
ロレンツの投げたお菓子を空中でキャッチして、着地して食べる。
甘ーい!!やっぱお菓子サイコー!!
この国の王子に何故か保護されてご飯に高級なのばっか貰えるけれど高級じゃないのも美味しいよね!!
もう今は人間になれなかったことは流して前世も今世も友人たちとこういうのを食べるので赦しましょう!!
「魔獣ってのは人型になれねぇの?」
「うーん……そっちの分野はまだ解明されてないらしい。人型ってのは多分、獣人たちだろうし」
「ふーん……獣耳ロリとかいけないのか」
「……キモイ」
「……」
精神的にも物理的にも引いたロレンツと同じ位置に移る。本当にキモイと思ったのだから仕方がない。
元オタクでも、やっぱ共感できるものとできない物があってさ……地雷じゃないんだけども……。
そんな私たちを気にせずお菓子を食べ続けるルイーザ。1つ、また1つと消えていくお菓子。
「お菓子!!」
私だって食べたいやい!!
お菓子をルイーザから掻っ攫い、安全圏で食べる。
もぐもぐ。おいし~。
そんな私を見てか、離れていたロレンツも戻ってくる。その手には、また新しいお菓子。
それもテーブルに置かれたら早速食べる。ふわふわで甘いよー。
外見が猫でもただの猫じゃないから体に心配はないし、そんなんだったら最初っから人間のご飯を食べればよかったなぁ……。
「そんなに食べたら太るぞ」
「太りませんー。この体はそのあたり便利なんですー」
「夕食食べられなくなっても知らないよ?」
「それがさぁ、ご主人たちがここ最近それを忘れてるみたいなんだよねぇ」
「「は?」」
私のご主人たちはこの国の第一王子のロルフ様と第二王子のリュネット様。
お二人は異母兄弟で、ロルフ様は黒髪に黒い肌に金色の目。リュネット様は異国の王子様そのもののような金髪碧眼だ。国王の血より母方の血の方が勝ったみたいで、性格も容姿も似ていない。
そして、二人とも攻略者だ。
だからってのもあり、二人にも聖女様というヒロインが絡みに来る。二人とも人間関係が苦手なタイプだけれど、異世界から聖女様を呼んでしまった国の王子として雑に扱えられないらしいし、ここ最近は本当に大変そうだ。
それを狙って毎回ここに遊びに来てますが。うちのご主人たちは束縛が強いので困るんですよ。なんででしょうか?
「お前を放置するなんて考えられない……」
「ふぉうか?ふぁたふぃはふぁりだ」
「口のもの飲み込んでから喋ろよ」
「……そんなに意外?いくらなんでも、私は猫なんだからこれが普通だと思うけど?」
「あああああ……お前がそういうなら僕はもう知らないよ……」
項垂れたロレンツに首を傾げる。なにをそんなに困っているのだろう?
ルイーザに目で疑問を投げかけてもスルーされた。なんなんだよ、いったい。
「諦めろ。こいつは何時だって本当に危険になってからじゃないと自覚しない性質だ」
「もうやだ……お前ホント最悪……」
何が最悪なのさ。わからないなぁ。
それに言うが、これでも拾われる前はサバイバルな生活を送っていた私だ。危機管理がなっていないっていうのはいただけないな。
これでも生き延びたんだ。
私と同じ魔獣や、私より大きい獣がいるあの場所で。
血生臭い、弱肉強食の世界で。
生き延びるためだけになんだってしたんだ。
「……そろそろ帰る時間なんじゃないの?」
「あ、やっば。怒られる~」
地面に飛び降り、急いで自分専用の隠れ通路に向かう。
早く行かないと脱出していたのがバレたら本格的に首輪に鎖つけられちゃうからね!!
「僕は知らないよ……」
「責任転換はしてやる」
帰り際に二人が何か言っていたのは聞こえず、通路を進んでいく。
魔術で作った隠れ通路を通り抜け、やっと自分の部屋に着いた。
薄暗くて、誰の気配もない。よし、大丈夫!!
そっと出て、窓辺に上る。
唯一の光である窓にはカーテンがかかっているけれど、器用に潜り込めばカーテンの向こう側、窓から外を眺められた。
青い空に活気ある町。あの中を走り回って人の話を聞いてみたい。なんて、それはできないけれど。
窓から離れて室内に戻る。
薄暗い部屋は食後の後は眠気しか誘わないからか眠くてなってきて欠伸を一つ。背中を伸ばせば嫌な音が背骨からした。
わぁ……最近運動してないから?
このまま寝たらさすがにヤバいかも。体脂肪が気になる。
けど寝処まで後一歩。……このまま、寝てしまいましょう!!
至福のダイビーーー「カルラ、話がある」
「……どうも…」
「…………まぁいいか」
飛びこもうとしたら思いっきり掴まれましたね、リュネット様に。
基本、人の言葉がしゃべれるっていのは内緒にしてるんで思わずつんけした言葉が出ました。突然の登場は勘弁してください。
何時お帰りなったのでしょうか?明かりを点けるところにはロルフ様もいました。いつもの不機嫌顔がさらに不機嫌なんですけど。どうしたんです?
ベッドの上に座ったリュネット様の膝の上に置かれ、撫でられる。
最初は前世の名残で恥ずかしかったので降りようとしてたのですが、これをしようとすると酷く手で押さえつられらるんですよ。そして次の日は鎖で繋げられるDay。
なので抵抗せずに慣れるまでは大変でした。自由を制限されるなんてまっぴらごめんだからね。
リュネット様の体温に目を瞑っていると、違う手が私を持ち上げる。
驚いて目を開けると、今度はロルフ様の膝の上。ちょ、ロルフ様はストップ!!
「……」
「ふにゃ……ふうっ……」
「……」
「にゃう……」
ロルフ様は猫を撫でるがうまいんですよねぇ。すごく喉が鳴ります。
個人的にはすっごい恥ずかしいんだけど!!だからロルフ様はダメなの!!あ、そこそこぉ……。
ロルフ様のお気が召すまで撫でられ続けてぐったりしていると、突然リュネット様が真剣な顔つきで私を見てきた。
どうしたのだろう?何かあったのだろうか?
ぐったりしながらも私もリュネット様を見返すと、思いつめたように口を開いた。
「……最近、俺たちの用意した食事を食べていないのは本当か?」
「……?(え、ご飯あったの?)」
「……やっぱり食べていなかったのか」
苦々しく顔を顰められたけれど私にとってはすごい初耳のことで驚きなんですけど。
え、ご飯あったんですか?全然わからなかった……。
ってことは怒られる!?
思わず部屋の隅に行きそうだったのをリュネット様に捕まえられる。なんでいつもいつもあなたは私の行動が読めてるんですか!?
ロルフ様に至っては呆れていた。解せぬ。
「あんたは……本当に行動が変わっていないな」
「離せしてくださいー!!」
「……おい」
「わかってる」
じたばた暴れているせいで何か話しているのが全然聞こえていませんが、私だって必死なんです!!
もうこの二人共怒ると怖すぎなんだっての!!
「カルラ」
「……」
手足を一生懸命振っていたのに耳元で名前を呼ばれた途端、思わず硬直してしまう。
リュネット様の声、低くて妙にクるんですよね。それに……どうも聞き覚えあるというか……。
猫だけど、正直その声を聞くと何もできなくなるくらい無抵抗になるんで勘弁してください。
手足を下に垂らしていると、抵抗しないことをわかったのかリュネット様に頭を撫でられました。
いい子いい子されてるみたいで気分はよくありません。
そんな辱しめしないてくれよー。
「あんたは勘違いしやすいから言っておくが、俺たちは別に怒っていない」
「……(本当かよ)」
「それに、なんであんたがご飯を食べれなかったのもわかっている」
「……食べれなかった?」
つまり、いつもお二人は私にご飯を出していたと?
考えても考えてもわからなくて、首を傾げた。
そんな私を気にせず、リュネット様は撫でてくる。リュネット様の恐る恐るで、だけど優しい撫で方はとても温かくて居心地がよくて好きだ。勿論恥ずかしいのだが。
怒っていないと知ったのなら、安心して撫でられる。私の存在を確かめのかのような撫で方は、この人の癖なのかもしれない。
「あんたはずっとここにいてくれるだけでいい。もう二度と、俺たちの前から消えないでくれ」
「……」
これもリュネット様の癖で、よく言われる。初対面なのになんでそう言われるんだろう?
ロルフ様も口には出さないものの目が訴えている。目は口程よりも物を言うっていうのは正解だよなってつくづく思う。
野生にいた時より自由はないけれど、二人の声が、目が、あまりにも悲しそうだからここにいる。
魔獣のクセに大人しく人に飼われて束縛されているってのは笑いものなんだろうけど、この人たちの傍はどこか温かくて懐かしくて離れられないのも事実なのでこうしています。
少し経って、またご飯が渡されるようになった。今度は交代制でリュネット様かロルフ様の手から貰うという羞恥心を煽ること付きで。
ちょ、勘弁してください!!そんなことしないで執務とかあと聖母様とか……え、聖母様は城に出入りしてない?あと執務はすぐ終わらせてる?
どうしてこうなった!!(ガッテム!!)
※簡単登場人物説明(全員前世の記憶があったりする)
・カルラ
前世は女性。今世は猫。
魔獣として生まれたときはなにがなんだかわからなかったけれど本能で弱肉強食の世界をなんとか生き延びていた。
幼少期の王子たちに出会い捕まえられて飼われている。とりあえず堕落生活を堪能中。
・ロレンツ
本当なら賢者として表に駆り出されるけど本人は偽って引きこもりたくなったから書庫守りしてる。本があるならそれでいい。
美形なのにもったいないぐらい世話焼きで注意しまくるまとめ役。お菓子とか紅茶は知り合いからよく貰うので消費するために出す。
・ルイーザ
ある屋敷のお嬢様の護衛。休暇貰えばよく遊びに来る。
前世オタクの名残で乙女ゲーム世界観お馴染みの女性キャラたちは大体モロタイプ。容姿はカッコイイのに喋ると残念なイケメン。だから基本は無言でいる。
・ロルフ
王国の第一王子。黒髪に浅黒い肌で金色の目の美形。いつも不機嫌顔なので誤解されやすい。
誰かとの連係プレーは苦手な動物好き。カルラは動物としてというわけではなく、好き。
・リュネット
第二王子で王道通りの金髪碧眼。だけど基本は物静かでネガティブ思考。
ロルフと比較されやすいので毎度毎度ネガティブになる。そのたびにカルラのところに行って慰めてもらってる。
カルラのことを動物としてじゃなく好き。
・聖女様
記憶ありのヒロインさんでしたがもう後半に連れて出てきません。
それなりに美少女で逆ハー目指してました。
彼女がどんな結末を迎えるかは今後余力あったら書くかも……?