三者三様・です
いかにも大学生の一人暮らしといった風情の六畳一間の部屋の中、二人は顔を突き合わせていた。
「なんかいい案は出たか?」
辻はそう問いかけた。
「出たように見えるか?」
村田はそう答えた。少しばかり挑発的である。
「あ?」
「俺の顔を見ていれば、その程度は自分で判断できるだろって言ってるんだよ」
ぶっきらぼうな物言いに、辻の眉間に皺が寄った。
「ちょっと訊いただけだろうがよ」
「意味のない言葉を吐くな。気休めに喋るな。わかったか?」
「そりゃ命令か?」
言いながら、辻の拳は机を叩いていた。
「要望だ」
村田は無表情のまま小さく言った。
部屋の中に、しばしの静寂。
辻は拳を引っ込め、
「……はやくどうにかしないとマズいだろ」
表情はそのままで言う。
「ここで朝になるのをのんびり待つわけにもいかねえ」
「そう言うお前は何か思いついたのか?」
「なんもねえよ」
辻は平然と言ってのける。あっけらかんとした顔だ。
今度は村田が眉根を寄せ、ため息を吐いた。
「まあお前はそうだろうな。なにも期待はできない。訊いた俺が馬鹿だ」
「喧嘩売ってんのか、コラ」
「お前みたいな頭スカスカのピーマン野郎じゃ、碌な考えを思いつくわけないよな」
「はあ!?」
また拳が机を叩く。
「だったらお前はカボチャだろうが! 中身は詰まってるかもしれねえけど、がっちがちに頑固で柔軟さもなくて、包丁も通りゃしねえ!」
「なんだとコラ!」
村田の両手の平が机を叩く。
「事実だろうがよ! ひょろひょろのもやしみてえね体しやがって、頭だけデカくてバランス悪いんだよ!」
「お前こそジャガイモみたいなツラして、頑丈さしか取り得がないだろうが! 女に惚れられたこともないだろ!」
「それはお前も同じだろうが!」
「お前よりマシだ!」
「なんだと!?」
言い合いはそのままヒートアップしていき、ついにはお互いの胸ぐらを掴み合う。しかしそこで、村田の方が落ち着きを取り戻した。
「待て! こんなことをしている場合じゃない!」
「ああ? やっぱ逃げんのかコラ!」
「いいから落ち着け!」
アクセル全開の辻をどうにか抑え込み、対面で座り直す。
「俺たちが殴り合っても余計面倒が増えるだけだ」
「……そうだな」
荒くなった息を落ち着けながら、二人は言う。
「荻野がいないと駄目だな。俺たち二人だけで緩衝剤のあいつがいないとすぐこうなる」
「なんもいいところがなくても、それだけは役に立ってたってことか?」
「ああ。それ以外は本当にどうしようもないやつだったけどな」
「そう。どうしようもないんだ。だからどう考えてもあんなやつがモテるのはおかしいんだよなぁ。考えるだけでまたイライラしてくる」
「落ち着けよ」
「やっぱりばらそうぜ! それがいい。方法的にもそれが一番だろ?」
「まあ……」
村田は少し思案し、
「一番妥当といえば妥当だな」
辻の案に賛同した。
「よし! そうと決まれば切るものだな!」
俄然元気になって張り切る辻に、
「どこかで買って来ないといけないだろ。それこそカボチャじゃないんだから、包丁で切るわけにはいかないぞ」
村田は呆れ混じりの声を返す。
そんなことを言い合いながら、二人は腰を上げた。そして部屋から出て風呂場へ向かう。
「カナヅチで叩き割れないか?」
「できるわけないだろ」
ため息を吐いて、村田は風呂場の扉を開けた。
まず目に入ったのは浴室に転がるカナヅチ。そして、
「鉄臭いな……」
トマトのように頭の中身を飛び散らせた男の体が、浴槽の中に無造作に倒れている。
「やっぱ、顔も体もいいところはねえと思うんだよなぁ」
浴槽の方をしげしげと眺めながら、辻がそう呟く。
「あの女どもに見る目がないだけだ」
村田は吐き捨てるようにそう言った。




