いつか当たりが
店員の声を背中に聞いてコンビニから出ると、一瞬にして熱気に包まれる。ギラギラと照りつける太陽がわずらわしい。
男は買ったばかりの棒アイスの袋を開け、キンキンに冷えたそれを口に咥えた。手の中で袋をくしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱に乱暴に突っ込む。
「……あっつい」
傍に誰もいないのに口に出してしまうのは何故だろうか。今日何度となく漏らした呟きに対してそんなことを考えながら、ゆっくりと歩きだす。アパートまでは歩いて五分。暑さはほんのしばらくの辛抱だ。
すると、不意に声がした。
「それ、ちょうだい」
足を止めず隣に目を向ければ、白装束姿の幼い少女の姿がある。ちんちくりんなその見た目から察するに、おそらく小学校に上がったばかりの年齢ぐらいか。少女は男の顔を見上げながら、せかせかと足を動かしてついてくる。
「ちょうだい」
「駄目」
アイスを齧りながら、端的に答える。
少女は一瞬だけ黙るが、すぐに口を開く。
「つめたいの、ほしい」
「冬まで待てよ」
男のつっけんどんな物言いに、少女の眉がハの字になった。
「ゆき、ふる?」
「ほとんど降らねえよ。ここがどこだと思ってんだ」
言葉を交わしながら、男はややゆったりとした歩調で歩き続ける。
少女の視線が男から離れる。辺りをきょろきょろと見回す。
唐突に、その顔がぱあっと明るくなった。
「あっ! これ、ゆき?」
「そりゃ塩だ」
通りに面した小さな一軒家の玄関口に置かれた盛り塩。少女の顔は落胆に変わる。
少女の視線は男へ戻る。
「ちょうだい。なんでもするから」
「なんでもって、例えばなんだよ?」
男の問いに、少女は黙ってしまった。
「金でもくれんのか?」
「できない」
「超能力が使えるようになるとか?」
「できない」
「じゃあ駄目だな」
少女は顔を俯かせた。その顔からぽたぽたと水滴が落ちる。
もうアパートは目の前だ。アイスはもう半分ほどになった。
男は何の気なしに空を見上げた。その視界に、降り注いてくるなにかが見えた。
「げっ……」
漏らした声に、少女が顔を上げた。空から降ってくるなにかに気づく。
「ゆき? これ、ゆき?」
「違う。ただの火山灰だ」
男は眉間に皺を寄せながら答えた。忌々しげに空を見る。
「かざんばい?」
「マグマの仲間みたいなもんだ。熱くてドロドロしたもの」
「あつい……」
「そうだ。お前の苦手なものだろ?」
男の言葉に、少女の顔が青ざめた。その上をだらだらと水が流れていく。
男はそれを眺めながらアイスを頬張る。
少女の足が止まる。その目は、男の持つアイスに釘付けになった。
男も足を止めた。
「……じゃあな」
そして大きく口を開ける。最後のひとかけを口に含み、舌の上で溶かす。
その瞬間、少女は消え去った。蒸発するように、白い靄を残して消えた。
ついいま立っていたはずのアスファルトの上には、大きな水たまりができていた。
「おっ、もう着いてる」
気づけば、男はもうアパートの前まで来ていた。
「灰かあ……」
露わになった木の棒を前歯で噛み、空を見上げる。目がちくちくと痛んだ。
男は視線をアスファルトに戻した。
「やっぱりカップを買った方がいいのか?」
誰ともなしにそう呟く。
額にじわりと汗が滲んだ。のんびりしていると暑さで参ってしまう。男は冷えた息を一つ吐いて、顔を上げた。
「次こそ巨乳のエロい女がでねえかなぁ」
すっかり冷えてしまっている腹を撫でながら、男は再びコンビニへと向かった。




