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■ 前 編

 

 

サクラが急に立ち上がった。

ちょっと驚いた顔を向け、なんだか嬉しそうに声を張り上げる。

 

 

 

 『よっし~部長ーー!!!』

 

 

 

リンコが、サクラの目線の先を追うとそこには、色黒で背が高くガッチリ

した筋肉質の男の人が。

サクラを見付けると、目を細めやわらかい表情で笑った。


そのやわらかい目は、所在無げにサクラ隣に座るリンコに、少し遠慮がちに

ペコリと小さく微笑んで会釈した。

 

 

 

 その所作。

 なんだか、嫌な気持ちはしなかったリンコ。


 むしろ・・・。

 

 

 

 

 

休日の駅前のコーヒー屋。


久々、サクラとリンコはお茶をしていた。

高校を卒業し、サクラは教育大・体育学部、リンコは4年制の社会福祉学部に

ともに進学。

勿論、高校時代よりは距離は離れたものの、変わらずの付き合いをしていた。

 

 

サクラが声を掛けたその人は、大学のソフトボール同好会部長だという。

 

 

 

 『あれま。偶然~! 


  よっし~部長も、一緒にどースかぁ? ・・・ねぇ?リンコ。』

 

 

 

ヨシナガを誘う、サクラ。


すると、

 

 

 

 『ぁ、ヨシナガです。こんにちは。』

 

 

 

まず、リンコの方を向いて自己紹介をし、サクラへ向き直る。

 

 

 

 『ミナモトー・・・?


  俺が一緒でいいかどうかは、まず彼女の気持ちを先に訊いた上で


  決めなきゃダメなんだよ。


  彼女が嫌だとしても、俺の前だともう言い出せないだろ?


  ・・・分かる?』

 

 

 

まるで父親のように注意する。

クスっと笑ってしまったリンコ。

 

 

 

 『ぁ、あの。キノシタです。はじめまして。』

 

 

 

リンコの挨拶に、ニコリやわらかく返すと、

 

 

 

 『紹介だって、”よっし~ぶちょー ”と”りんこー ”、じゃなくて


  ちゃんと苗字を言ったほうがいいんだぞ?』

 

 

 

口調によっては説教臭く聞こえる言葉も、ヨシナガが言うと嫌味な感じが

全くない。

きっと、やわらかく穏やかなリズムの為なのだろう。


ケンカっ早いあのサクラが、素直に大きく口を開けて『はーい』と従った。

なんだかそんなサクラが意外でリンコは目線だけ向けてもう一度小さく笑った。

 

 

 

サクラ・リンコ・ヨシナガの3人で、お茶をする休日の午後。


いつも混んでいるこの店。

オーダー待ちの人が、ふたつあるレジ横に列を作り事前にメニュー表を

眺めつつ並んでいる。

 

 

 

 『へぇ~、高校の友達なんだ?』

 

 

 

サクラとリンコの関係性を話すと、ヨシナガはにこやかに相槌を打った。


聞き上手な人だな、とその時リンコは思っていた。

相槌や返事のタイミングが絶妙で、でもそれは意識的に狙っている風では

なくて。


サクラが、高校時代のエピソードを、息継ぎも忘れたかのように身振り

手振りも織り交ぜまくし立てヨシナガに話す。まるで子供と父親だ。

俯いて笑ったリンコ。


すると『トイレー。』 と宣言して、サクラが離席した。

 

 

 

 『全然タイプ違うように見えるけど・・・ 大変じゃない?』

 

 

 

頬を緩ませながら、トイレに立ったサクラの背中を軽くアゴで指し

目を細めるヨシナガ。

 

 

『サクラといると楽しいので・・・』 リンコが笑う。

 

 

 

 『”指輪の人 ”、スゴイと思っちゃうよ~』

 

 

 

小さく伸びをしてそう言ったヨシナガに、


『カタギリ先生のこと知ってるんですか?』 とリンコがすぐさま訊いた。

 

 

 

 『えっ?! カタギリさんって・・・ 教師なのっ?!』

 

 

 

目を見開いて驚いているヨシナガ。

先日の”サクラ泥酔・部室殴り込み事件 ”の話をすると、

リンコが可笑しそうにケラケラ笑った。

 

 

 

 『でも・・・ らしいと言えば、らしいですよ。


  高校の時も、


  サクラにちょっかい出す男子と本気でケンカしてたし・・・』

 

 

 

ふたりで肩を震わせて笑い合っていた。

 

 

 

 

ふと何気なしに、リンコの注文したドリンクのカップを覗き込んだヨシナガ。


その目線に、『チャイティーラテですよ?』 と呟き、

『好きなんです。結構ハマってて・・・』 とリンコは続けた。

 

 

 

 『コレ、簡単に家で作れるんだよ。』

 

 

ヨシナガの言葉に、『えっ?! ほんとですか?』 とリンコが食い付いた。

 

 

『教えよっか? ぁ。なんか書くもん、ある?』


『ん~・・・ ぁ。ケータイにメモ・・・』

 

 

 

カバンの中に手を入れ掴んで、テーブルの上に出されたケータイに

視線を落とすふたり。

 

 

 

一瞬、沈黙。

 

 

 

 『ぁ。もし、嫌じゃなければ・・・


  あー・・・、いや、もう断りづらいだろけど・・・


  ラインID、とか・・・。』

 

 

 『ぁ、いえ。 あの・・・全然ダイジョーブです。 喜んで・・・。』

 

 

 

やたらとまどろっこしく気をまわし、照れくさそうに少し口をつぐんだふたり。

指先でコーヒーカップの持ち手を弄ぶヨシナガがその沈黙を破るように言った。

 

 

 

 『俺ねー、自炊歴長いから料理もするし、お菓子も作るんだよ。』

 

 

 

こんな典型的な色黒スポーツマンが、エプロンをして泡立て器を握る姿を

想像する。

リンコが笑っては失礼かと、笑い顔を堪える。

 

 

 

 『ヒマな時とか、よくクッキー作っててさ。


  ミナモトに食べさせたら、絶賛してくれた。』

 

 

 『えー!!すごい! いいなぁ~・・・』

 

 

リンコの反応に、

『食べる? 作るよー。』 ヨシナガがにこやかに笑う。



『ほんとですかっ?!ぇ。嬉しいー、楽しみにしてます。』 


リンコは色黒エプロン姿に想像笑いを抑えられなくなった。 

 

 

 

 

 『ていうか、ミナモト遅くない?迷ってんのかな・・・』

 

 

観葉植物の陰に隠れ、なんだかイイ雰囲気のふたりを、ニヤけながら

こっそり見ていたサクラだった。

 

 

 

 

 

 『ちょ。ハルキ、聞いてっ!! リンコとよっし~部長がっ!!!』


今日のコーヒー屋での出来事を、その夜の電話で興奮冷めやらぬ感じで

ハルキへ話して聞かせるサクラ。

やたらとワクワクして嬉しそうな声色。


ハルキは若干低めのテンションで『ヨケーな事すんなよぉー。』と釘を刺した。

あからさまに不満気なサクラの声が電話向こうから伝わる。

 

 

 

 『えー・・・ なーんでぇー・・・ あたしの出番じゃ・・・

 

 

 『ない!出番じゃない! 


  お前が関わるとまとまるモンも、まとまらんくなる!』

 

 

 

 チッ。舌打ち

 

 

 

   (いいもんね~。勝手にするもんね~・・・)

 

 

 

 

『・・・勝手にやるとか考えてんじゃねーぞ?』


サクラの心の声もハルキには筒抜けだった。

 

 

 


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