戦争反対!
「戦争なんてもうコリゴリです」
女性コメンテーターは金切り声を上げた。
「戦争の教訓を忘れたですか。
どれだけ多くの人が死んだと思っているんですか」
「だから、戦争をしないための抑止力として同盟が必要なんです」
与党政治家のOはいつもの鋭い目をわざと弛め、笑顔で答えた。
「それは交戦権を否定してる憲法の下では違法です」
彼女は間髪入れずに割り込んだ。
それは先の世界大戦後に制定された平和憲法だった。
「国を守る為の自衛権ですので、違法ではありません」
Oを表情を変えずに答えた。
「戦争好きな国と同盟を結んで、
そんなに戦争がしたいんですか」
彼女はまた金切り声を上げた。
「現在のアジア各国の情勢を考慮すると、
東アジアを安定化するためにある程度の軍事力が必要となります。
これを日本単独で実現するには防衛予算の大幅な引き上げが必要となります。
この事こそ周辺国に脅威を与えます。
無用な警戒を抱かせないためにも同盟が必要なのです」
「戦後70年、平和憲法の下で戦争に巻き込まれずに至っています。
あなた方が言う隣国の脅威など、でっち上げです。
あなた方こそが戦争を煽っています」
彼女はそう発言すると、振り返って観客の方を向いた。
「戦争反対!」
「戦争反対!」
彼女を支持する観客から声が上がった。
「憲法で国を守っていたわけじゃないでしょう」
Oが皮肉めいたことを呟いた。
「憲法を遵守しない国会議員は必要ありません」
彼女は冷静に反論すると、
「議員を辞めろ」
「議員を辞めろ」
と観客は連呼した。
討論番組のMCは観客に静かにするように促したが、
収拾できる雰囲気じゃなかった。
(戦争から何も学んでいない。)
Oは心の中で思った。
第3次世界大戦を終わって70年経っていた。
Oは現在の状況が先の大戦の原因となった状況に似ていると感じ、
全力で回避しようと頭を捻っていた。
先の大戦の原因は日本国憲法だった。
野党は、米国との同盟強化をはかろうとする現政権を軍事政権と批判し続けた。
平和ボケした国民も、政治家らが暴走すると決め込み、同盟強化を拒絶した。
そうする中、C国は南方諸島を占拠したのだ。
そうなると馬鹿な日本人はイッキに逆に振り切れた。
国土奪還を掲げた政党が7割の支持を得て政権を取ったのだ。
2000年代の自民党と民主党の政権交代を見れば予想できないこともないはすだった。
誕生した政権は、C国との軍事衝突を避けるのを提言した米国との同盟を破棄した。
そして防衛費いや軍事費と言った方がいいだろう予算を大幅に増額した。
そんな中、海上保安庁の護衛艦がC国海軍から砲撃を受けた。
船は瞬く間に沈み、数十人の死者が出た。
国内世論が沸騰し、憲法が軍事色が濃い内容に改定されたのだった。
それと同時に日本軍が報復に出た。
C国海軍を南方諸島から追い落とした。
東南アジア諸国も同時に立ち上がっていた。
これはABDE包囲陣と呼ばれた。
Aはアメリカではない。
ABDEにはCが抜けている、
つまにCを包囲しているということだ。
泥沼の戦争は3年続いた。
しかし、明確な勝敗はつかなかった。
ヨーロッパ諸国の仲裁で停戦合意され、
それ以来、戦闘が行われることはなかった。
C国はタガが緩み内乱が続発した。
一方、日本は軍事政権が倒れた。
その揺り戻しのように平和憲法が制定されたのだった。
Oは、人の意見に妥協しない彼女と彼女を支持する観客を見つめた。
(日本をまた軍事国家にしないためには、
少しや利過ぎても、C国の南方諸島進出を食い止める)
Oは強く誓った。




