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あらすじ候補:
怪物は語る――。「『いじめは正しい』ということを、俺たちは学校で古典から学んでいる」
怪物は語る――。「いつ誰が死の引き金を引くかなんて、分かったもんじゃねえからな」
怪物は語る――。「『優しい』と書いて『ださい』と読むんだよ」
怪物は語る――。「俺たちは、多数決の原理を中心に成り立っている民主主義国家を生きていることに誇りを持ち、少数意見の存在を認めた上で握り潰さなければならない」
太陽は随分前に落ちた。
微かな月の光と町の、人工的で温度のない光が木々の合間を縫い、そこに人が三人いるということをなんとか教えてくれる。
ひとりは乾いた土の上であぐらをかき、にやにやしながらスマホをいじっていた。
その画面には「殺っちゃえ殺っちゃえ」「うけるwww」「もっとぼこぼこにしてやれ」などと活字が並んでいる。
もうひとりは恍惚の表情を浮かべ、手に持った一メートルほどの細い木の枝を鞭のようにして、何度も何度も、何かを叩きつけている。
そしてもうひとりがその「何か」だ。雑巾のようにボロボロになっている彼の顔にはいくつもの青あざや切り傷、火傷による水ぶくれがある。血を吐いた形跡もある。
「龍一、そんなの見てないでお前も一緒にやろうぜ」
ゴールを決めたサッカー選手のような清々しい顔で、木本豪太はスマホを見ている斉藤龍一に言った。
「いや、それよりさ、すぐ向こうにちょっとした斜面があっただろ」
斉藤は右手をついて立ち上がり、スマホをズボンのポケットにしまう。
「落とす?」
倒れている麻生信次は腫れあがった目でチラッと彼らを見た。しかし、息を切らしたまま何も言わない。
「サスペンスでよく出てくるような崖だろ」
斜面の上で口論が勃発、取っ組み合いの喧嘩になった末にひとりが落ちて死亡。そんな風景を連想させる。
木本はうつ伏せに倒れている麻生の髪を引っ張り、彼の頭をその切り立った斜面から出し、顎を浮かさせている。
木や草が無造作に生えているその斜面は、下まで五十メートルほどだろうか。
「怖いか? 今から落ちるんだぜ? 財布泥棒の罪としては丁度いいくらいだと思うが、どうだ、麻生。最後に何か言い残したことはないか?」
ハア、ハア、と息を切らせたまま、麻生は視線を下に向ける。言葉は発しない。
「そうか。最後までお前は喋らないのか。立派だよ。尊敬する」
木本が腰を下ろしてゆっくりと低い声を出している間、斉藤は「ハハハ」と立って笑っていた。だが、その額には薄っすらと冷たい汗があった。
「よし、龍一。落とすぞ」
木本は麻生の腕を持ち、斉藤は脚を持った。二人の顔は恍惚に満ちあふれている。
「いくぞ。せーっの」
その時、
「覚悟はできているか?」
麻生の凛とした声が闇の中、微かに響いた。
第一話は今晩9時頃投稿予定です。