なんでおまえがここにいるんだあ!嫁
わしは今絶望に打ちひしがれている。
前世がウソなくらい今世はモッテモッテだからだ。
わしを見ては老若男女問わず見惚れて、ため息をつく。
爽快な気分も少しはあるが、問題なのは求愛してくるのは
ほぼ100パーセント男しかおらんことだな。
いくらなんでもこの意識のまま男と結婚はない!
前世からそういう性癖ならばよかったが、まったくそれはない!
やっぱ精神が男だから、感情が否定してしまうな。
まずその男のフェロモンが嫌だな。
油きった手も、口も顔がごついのも、、、まあ何もかも嫌なんだな。
やっぱおばはんでもまだうちの女中頭40歳くらいならまだいい。
たとえ美青年でも美少年でもだめだ!男の匂いがいかん!
前世からわしは女遊びなど一切しないまじめな男だったのだ。
まあ家のローンとかあってできなかったと言うのもある。
景気の良い時に組んだローンの高さに挑み続けた生涯と言えるだろう。
ふうーいやそんなことよりも。
もてないくん30年のわしが、お見合いで一目で惚れたのが嫁だった。
そこそこ美人で、明るくてノー天気なところがツボだった。
嫁には最初うざがられたが、三顧の礼を尽くして嫁に来てもらったのだ。
ストーカーではないが、今思えば危なかったな。いい思い出だ。
男は嫌なんじゃーと言うことで、だから女に走ることはないけどな。
美人じゃーFカップーとか思ってもそれはそれ令嬢だからわし。
しかし運命とはえぐいのな。男に生まれたら、これだけの美貌なら
モテまくってカサノバとか光源氏とか、前世でもてなかった分正反対の生き方ができたのでは?
なーんて思ってしまうのはわがままだろうか?
ま、とにかく、禿頭のおっさんの幻の顔とおっさんの心で
男と結婚とか、あまりに非道!
もうなんか死にたい気分なんだが、、、
そんなこんなで適齢期になってしまったので、親に勝手に決められてしまった。
この世界での適齢期とは14歳からで、わしは15歳でなんでばっちりだ。
今世の両親とは前世とまったく違った生活スタイルで、わしは乳母やら教育係の召使に育てられ、
食事の時以外にはあまり交流はない。
それがこの世界の貴族の普通の暮らしらしかった。
だから、いきなり母親に呼び出された時は良からぬ予感がしたのだが。
わしの家は一応名門らしいのでわりとでかい家を持っている。
サラリーマン50年ローン完済したわが家の小ささから比べると
なんだか虚しくなるような大きさだな、比較しても仕方ないのだが。
いちいち親の部屋まで広い通路を通って行く、夜は通路が怖いぞー
まあ室内にトイレがあるからいいんだが。
なぜかトイレ事情はこの文明下にしてましな方だ。
下水も紙もあるので昔の和式トイレを洋風にしました的な感じではある。
そして各家族の部屋には寝室と応接間と衣装部屋があるのだ。
わしのローンの家がこのわしの私室より狭いのはなんともいえんのだが。
白いドアを開けると椅子に座るまだ20代後半くらいの美女がいた。
この女性がわしの母親なのだ。
白金の髪に青い瞳に白い肌、あまりの美人さにおっさんの心がくらくらする。
別にマザコンではない。
「お母様およびでしょうか?」
一応わしも令嬢のはしくれなので、血と涙の修行の末に、令嬢スキルがあがり、優雅な礼もできたりする。
「アンジェリーカ、わたくしの美しくかわいい天使、今日のそのドレスはお前の瞳に良く似合ってよ」
「お母様のお召し物の方が素敵ですわ、朝露に濡れる薔薇のようでお似合いですわ」
・・・・・・・・・・
なんとも言えない歯の浮くようなセリフは別にわが家がナルシスト家系なわけではない。
これもまた社交界を生き抜くための血を吐くような特訓なのだ。
母親曰く、社交界とは言葉の刃で戦う修羅の戦場のごとしなのだ。
怖すぎるだろう社交界。
「あなたに素晴らしいお話をいただいたのよ」
母親がにっこり笑って、わしを断頭台におくるセリフを吐いた。
「あなたのいいなずけがきまりました」
ついに来てしまった、、
侯爵の跡取り息子と婚約の運びになってしまった。
「侯爵家のあととりは、すごい美男子だし、美男美女でおめでたい」
家族や親せきからもお祝いが届き屋敷の者も大喜びだ。
お見合い肖像画を見たら、本当に美男なんだが、所詮男だ。
ニューハーフならまだしも、男でしかないじゃないか!
まあ、わしは令嬢なんだから、相手が令嬢でないのは分かってはいるんだが
そんなこんなでもんもんとしてたら、
わしの元気のないのをいぶかって両親が親戚の女子を呼んだらしい。
励まして欲しいと言うことだろうな。
いままでわしは前世記憶持ちなんで、周囲の貴族女子とはあまりお友達になれなかった。
女学校もあるにはあったが、わしの両親はそこへは何故か入れたがらないので、若いぴちぴちの女子はメイドの下働きを見かけるくらいしかなかったのだ。
ベテランのメイドはおばちゃんばかりなのでな。
今は同性なんだがぴちぴちの女子と言うだけでわしは興奮してしまった。
最近は舞踏会にいやいや連れ出され、女子には遠巻きに見られて近づけず。
男からは気持ち悪いキッスを手の甲にされる拷問を受けていて本当に憂鬱だったのでうれしい。
(手袋してるからと言って気持ちわるさにはかわらないぞ)
親戚の男爵令嬢であり魔導師と言うことで高名な、エカテリーナ嬢が我が家に遊びにくることとなった。
親戚の割には会ったことはない。
なんでも天才的な素質の持ち主で、子供のころから活躍してたようだ。
この世界にはファンタジーな世界なので魔法を使える人はいるが
あまりに数が限られるので引く手あまたで忙しいのだ。
しかし、わしの身近では魔道を使う人がいなかったので、
すごく興味があるな、前世の手品師に興奮したものだが、今回は種なしハンドパワーなんだからな。
婚約者の件は頭の隅っこに追いやって、美人魔導師令嬢をわくわく待っていた。
「おつきになられました」
メイド頭がサンルームに連れて来た少女を見てわしは愕然とした。
女性なのにパンツルックで白いマントを羽織り、白いベレー帽をかぶっていた。
手には意匠をこらしたステッキが握られて、魔女っ娘的な雰囲気をかもしだしているのだが、、
このかわいらしい、、服の
このかわいらしい恰好の少女の顔には
二重写しのようなおばちゃんの顔がかぶさっていたのだ。
それはなつかしい優しげな女性の、、
「あなた、、、」
その女性はわしのことをそう呼んだ、、
間違いない。
「美代子!おまえだったのか」
この世界でまたおまえに巡り合えたのか美代子!
などとわしは感傷にふけってたのだが、、
やはり元おばちゃんは強かった、感傷もくそもなく。
前世の嫁は豪快に爆笑した。
「ド、、ドレスとあなた、、、すごい」
失礼すぎる!
「すごいとはなんだー!」
つい令嬢らしからぬ叫びを上げるのだった。