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この手に明日を掴むまで-04(97)

「やっぱり、何か変だ」

 再び舞い戻った、今迄と何ら変哲のない荒野。 相変わらず、視覚は何ひとつ異常を捉えない。

 けれど言葉には出来ない感覚が、沢山の異質な気配の存在を、恭に訴える。

 その気配は、まるで何かを取り囲む様に、規則正しい間隔で穿(うが)たれ、尚且つ広範囲に及んでいた。

「皓は本当に何も?」

「ああ」

 戸惑った表情を浮かべる皓に、恭も逆に戸惑いを隠せない。


『皓が嘘を言っている様子はない。なら何故自分だけが、反応しているんだろう?』

 幾ら原理を考えても、理解出来ない事は多々有る。

 仕組みの究明を理由に一切の行動が止まっているならば、それは時間の無駄遣いに他ならない。

『どうしたら良い?』

 理解出来ぬ不可思議な現象とは、即ち、何か重要な物が此処に隠されている証なのでは。

『……自分を信じる以外、ないよね』

 未だ周囲を見回す皓の姿を横目に捉えながら、恭は恐る恐るその気配に手を(かざ)した。

 瞬間、ビリッ! と痺れたような感覚と共に、指先に硬質な材質の「何か」が触れる。

「皓!」

 切羽詰った声で、恭は皓を身近に呼び寄せると、若干上擦った声音で、真実を告げた。


「聞いて、屋敷はこの場所に在る」

「!」

 触れた指先から、衝撃と共に伝わった、微かな景観。

「結界……か?」

「多分」

 眼に見えない巨大な壁が、周囲から巧に屋敷の存在を覆い隠しているだけで、屋敷自体は間違いなく、この場所に存在している。

「くそっ! 一体どうやって中に入ればいいんだ?!」

 眼に映らなければ、先に進む事さえ、出来ない。

 腹立ち紛れに、結界を殴ろうとした皓の拳は、在らぬ方角を向いていて。

「ここだよ、触ってみて」

 苦笑と共に、恭が指し示した場所に、皓は、自分の掌をゆっくりと結界へ(あて)がってみた。

「?」

 不思議そうな表情を浮かべつつ、幾度も同じ場所を触り続ける皓に、恭は笑いを隠せない。

『皓ってば、小さな子供みたいだ』

 皓の態度に、とうとう腹を抱えて笑い出した恭に、皓は幾分怒りを交えた口調で、声を張り上げた。


「……違う」

「?」

「俺の手には何も触れない」

「えっ?」

 恭にも確認出来るように、皓は自分の手を、空中で出来る限り、大きく動かした。

 先程、恭が掌をついたと思われる場所は、あっさりと皓の手を受け入れ、何の反応も返しはしなかった。

「何で!?」

 慌てて、皓の真横に移動すると、恭は両手を結界目指して、力一杯押し出した。


 バシッ! 

 直後、皓にも聞き取れる程の激しい衝撃音と共に、恭の身体が、大きく後方へ弾き飛ばされた。

「恭!」

 受身さえ取れずに、軽々と吹き飛んだ恭の姿と、何もない空中の間を、皓の眼が(いぶか)しげに何度も彷徨う。

「……痛っ」

 呆然とした表情を浮かべながら、上半身を起こした恭が、その場で小さく声を上げる。

 派手に擦りむけた膝の他に、両の掌に負った、赤い火傷。

 (わず)かに痛む(あと)は、結界に存在を拒まれたからこそ、生じたのだ。


「けど、どうして?」

 恭は自分の掌を皓へ見せながら、何度も視線を、結界と皓との間に往復させる。

「微妙に位置が違っただけかも知れんな」

 大きく息を吐き出して。

 逡巡はしたものの、結局恭と同じ場所を、皓は持てる力を全て込めて、突き上げた。

「皓!」

 けれど、やはり何の手応えもなく、皓の身体は、悲鳴に近い恭の声と共に、荒野をほんの僅か移動しただけに留まった。


「……」

 お互い、同性である相手の顔を、これほど真剣に見詰めた事など、なかっただろう。

 一方は結界に弾かれ、一方は結果に触れる事すら叶わない。

「一体、どう言う仕組みになっている?」

「さあ……」

 身体に付着した土埃を払い落しながら、再び触れた指の先。 確かに伝わる感触に、恭は思わず皓の手を取った。

「此処だよ、解らない?」

 自分の掌を皓の手に重ねて、無意識にそのまま、結界へと強く押し当てる。

「俺には何も――」


 答えようとした皓の言葉は、押し当てた箇所から生じた眩い光に遮られ、宙に浮いた。

 ぐにゃり と世界が歪む感触。 硬い地面を踏み締めた、足元の確かな感覚が、不意に断ち切れる。

 刹那、周囲がねじ曲り、己自身が折れ畳まれた。

 溢れる光の洪水に視界は廻り、展開される景観を正しく両目に捉える事も出来ない。

 平衡感覚の頼りなさに、結果、招き出される眩暈(めまい)

 自分の身体は果して下降しているのか、上昇しているのか。 それすら掴めずに皓は目を閉じる。

『駄目だ吐き気がする――』

 朦朧(もうろう)としながら、反射的に握り締めようとした手に、忘れていた互いの温かな感触。

 繋いだその手を離さぬよう、皓と恭はどちらともなく力を込めた。

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