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仄暗い、闇の中で-05(88)

『こいつ……』

 ――告げた声も、頬に刻んだ笑みも、なんと傲慢(ごうまん)な事だろう。 けれどその傲慢さから不思議と眼が離せない。

「おいで」

 彼の(あざけ)りを含んだ呼び掛けと、誘うように黒禽へと差し伸べられた、華奢な白い腕。

 一連の動作に挑発され、怒りに燃えた黒禽が動いたのは、(ほとん)ど同時だったように、皓には思えた。

 上昇してから襲ってくると思われた黒禽は、皓の予想に反し、何と直線上に移動したのだ。

 魔物の鳥でしか有り得ない動作に、皓は思わず喉を鳴らす。

 だが更に驚くべき事にその異様な黒禽の動きすら、彼はたった一度の攻撃で、見切っていたのだろう。

 動揺する事なく突進してきた黒禽相手に、彼は錫杖を垂直に突き出すと、避ける事なく正面から迎え撃って出た。

「仕込み杖か!」

 両手で構えた錫杖の間から、先程までは無かった、細く鈍い光りが洩れる。

 視力の弱い黒禽が、錫杖に隠された(やいば)に気付いた時には既に遅く、また巨大な体躯の勢いを、黒禽自身が簡単に止められる筈もなく。


「ギャッ!?」

 啼き声を上げ、一直線に光の帯目掛け突き進んだ黒禽は、抵抗すら適わぬまま、(くちばし)の先端から足先まで、

その鋭利な刃によって、体躯を左右に二分されていく。

 まるで、柔らかい動物か何かの肉を切断しているかのように。

 頑強さを誇る黒禽の躯は、その身の中心に彼を呑み込んだ結果、成す術もなく自らが進んで、

彼が構えた刃へと突進していく羽目に陥った。

「ギャァオオオオオー!」

 断末魔を上げながら、黒禽は必至の抵抗を試みるが、己が体躯の勢いは、一向に緩まる気配はなくて。

「罪深き魂よ、(とこ)しえの闇へと向かうが良い」

 黒禽の濁った眼に最期に映るは、浮かべた彼のただ穏やかで優しい微笑(えみ)のみ。


 やがて彼の刃を挟み、左右に通過した黒禽の躯は、完全に縦に二分された(のち)、地面へと鈍い音をたてて、転がった。

 不思議な事に黒禽は、途中その血液を一片たりとも彼に撒き散らす事はなく、(たお)れた地面にのみ遅れて大量の血溜まりを描き出し、辺りをじわじわと染めていく。

「良し」

 返り血一つ浴びる事なく、嫣然(えんぜん)と浮かべた微笑をそのままに、彼は刃を元の錫杖へと収めた。

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