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仄暗い、闇の中で-04(87)

『遙、お前の気持ちを我は解らなくもない。だが通り掛かった先でいちいち人助け等していては、ただでさえ弱っているお前の身体が保たない』

「黎」

『我は老い先短いお前と契約した覚えはない。我の長い生涯において、お前は常に我の傍らで、襲い来る日々の退屈から、我を紛らわせてくれる存在でなくては、困るのだ』

 どういう意味かと眼を合わせた所で、黎の感情の見えない瞳は、冬の湖の底の様に冷たい水色一色で。

 ――私は差し詰め退屈凌(たいくつしの)ぎの玩具……とでも言いたいのか?――

 素直に、お前の心配をしているのだ、と告げてくれれば、まだ遙も喜べただろうに。

 あくまでも自己中心的な意見を述べる黎に、遙は短く嘆息する。

「お前の傍らに常にいる約束をした覚えなど、私には無いのだが……」

 囁きほどに小さく、黎に聞き取れぬよう小声で、遙は黎の意見をしっかりと否定する。


 まだ若い大地の精霊王である黎に、何故そんなにも気に入られたのか、遙には解らない。

 呼べば、いや呼ばなくても何処にでも現れる、その余りの身軽さに惹かれて契約を結んだが、まさか黎の正体が大地の精霊を統べる王とは、迂闊(うかつ)にも当時の遙は気付かなかった。

 己の地位を告げぬまま、遙と契約を結んだ黎の真意は、随分時を重ねた現在(いま)も未だに不明だ。

 黎の半ば以上強引な勢いに押されて契約を結んだものの、結果は果たして良かったのか、悪かったのか。

『何か言ったか、遙?』

「いや、別に」

 問いかける黎の声に答えながら、遙は再び眼の前の黒禽へと、意識を集中する。

 触れた翼から読み取った、黒禽の忌まわしい過去。

 狙い易い人間の子供ばかり、何度その爪で襲ってきた事だろう。

 ――一度でも人の味を覚えた黒禽を、私は、生かしておくわけには、いかないから――

「黎、黒禽を始末する」





 睨み合ったまま、互いに動こうとしない両者を、皓は成す術もなく見詰める。

 彼の元に駆け寄ろうにも、何故か指一本動かす事が出来ず、皓は唸り声を上げた。

「くっ!」

 黒禽が翼を動かす度に地面に強風が巻き起こり、立っていられない程の風圧が、重心の自由さえ効かない皓を襲う。

 黒禽との戦闘中にも関わらず、ふとこちらを見遣った彼が、皓の様子に眼を(すが)めた。

「黎、彼に防壁を」

「御意」

 どこからともなく聞こえた声に、まるで順応するかのように、吹き荒ぶ嵐が不意に止んで、皓は風圧で半ば閉じていた眼を開ける。

「?」

 否。風が止んだ訳ではない。 皓の周囲だけがまるで切り取られたように、嵐の影響を受けなくなっただけだ。

 限界まで瞳を見開いた、皓の視線を逸らすこと無く受け止めて、彼は誰にともなく、厳かに告げた。

「すぐに片を付ける。遊びは終わりだ」

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