共感する、想い-04(83)
「……俺はそんなに両親にとって邪魔な存在でしかないのかなぁ」
消え入りそうな声。
力なく俯いた少年の赤茶けた髪を見ながら、皓は同じ孤独を抱く人間がようやく見つかった事を、沈黙の中で悟った。
『この少年と俺は、多分同じ想いを抱えている者同士だ』
恐らくは初めてであろう、皓は相手の掌を掴み取るために、率先して掌を差し出した。
「俺は皓。お前は?」
他人から常に疎外される立場にいる少年も、皓と同様にこういった行為には慣れていないのだろう。
当たり前のように差し出された皓の掌を、しばらく言葉もなく見詰めた後、少年は心から嬉しそうに微笑んだ。
「えー俺? 俺の名前はねー」
「兄ちゃん、危ない!」
顔を上げて皓の掌を取ろうとした少年の動作と、笙が上げた悲鳴は一体どちらが早かったのだろう。
眼の前に居た少年の身体が、不意に現れた黒禽の強靭な足に攫われ、横殴りに飛ばされる。
グシャリ、と森の中に湿った嫌な音が響き渡る中、皓は笙の手を取って駆け出していた。
音の発生源を改めて確認するまでもなく、皓はひたすら森の中を駆け続ける。
一瞬視界を占めた紅い色。 そして先刻の黒禽とは比較にならない程大きく禍々しい漆黒の翼。
つがいを殺され、怒りに燃えた黒禽の眼を、背を駆け上る戦慄とともに皓は見た。
「兄ちゃん。さっきの人」
「考えるな」
震える笙の言葉を皓は強く遮る。
受身も取れず投げ飛ばされた身体は、相当な勢いで樹々に叩きつけられた筈だから。
少年の身に訪れた最悪の結果は、改めて考えるまでもないだろう。
「つがいだって解っていたのに、くそっ!」
お互いの気持ちを解り合えるかも知れない立場にいた少年の掌は、しかし皓が掴み取る寸前で、儚く宙に消えた。
「兄ちゃん……」
何が悔しいのか判らない。 皓は不意に溢れ出た涙を乱暴に拳で拭い去ると、顔を上げる。
「笙、何が何でも帰るぞ、家へ」
執拗に追ってくる黒禽の気配を背中に感じながら、皓は次に打つ手を必死で考えていた。
「良いか、笙。俺が合図したら、お前はただ前を見て走れ」
「けど」
「俺の弟だ。お前なら出来るだろう?」
躊躇する弟に皓は尚も畳み掛ける。
「誰より強い俺の弟だ。勇気を見せろ」
頷いた笙に黙っているよう指示すると、皓はわざと乱雑に音を立てながら、先程とは逆方向に移動を開始する。
黒禽が人間の気配を辿り、大きく旋回した事を確認すると、皓は手を挙げた。
「行け」
声も立てず走り出した笙と同時に、皓もまた黒禽を誘き寄せる為に、派手な音を立てながら走り始める。
果たして狙い通り黒禽は、遠目にも大きな黒い翼を翻し、耳障りな雄叫びを上げながら、皓の後を一直線に追いかけて来た。