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共感する、想い-02(81)

 見上げた黒禽から目を()らす事なく、口調だけはあくまでも軽く、少年が応じる。

「良いか俺が黒禽の足を落とすから、お前は後ろから俺の援護をしてくれ」

「解った。油断するなよー」

 少年の声を背中に受けて、皓は再び黒禽を間近まで(おび)き寄せる。

 不自然に(かし)ぐ翼はやはり思う通り操る事が出来ないようで、黒禽は皓に決定打を与えられずに、苛立った()き声を断続的に上げ続けていた。



「眼だ! お前眼を狙ってくれ!」

 矢を休む間も無く連続で射掛ける少年に、皓は怒鳴る。

「人遣い荒っ!」

 答えた少年は口ではそう言いながらも実際は皓に指図される迄もなく、黒禽の眼を目掛け更なる矢を打ち放つ。

「ちっ! 駄目か」

 しかし肝心の矢は眼を貫く寸前で気配を感じた黒禽に払い落とされる。

 刹那、計画通り足元に廻り込んでいた皓の刃が、矢に気を取られていた黒禽の一本足を切り裂いた。

 黒禽の全神経が切り裂かれた足に向いた瞬間、その隙を敏い少年が逃す筈も無く。

「ギャァオオオオオー」

 唯一の眼と足を失った黒禽には最早成す術も無く、狂ったように暴れるだけの存在に成り果てる。

 皓は巨体に巻き込まれぬように近付くと、最期の一撃を黒禽に見舞って片をつけた。




「お前一体……」

 まだ肩で荒い息を繰り返しながらも、皓は突然この場に現れた少年に問いかける。

「ああ俺? 俺は強いからね、家族が逃げるまでの囮なんだ」

「はあ?」

 殊更明るく返した少年の意外な言葉に、笙を手元へ呼び寄せていた皓の動きが止まる。

「今日隣村に越して来たんだけど、祭りやってるって聞いて、一家で見に来たんだ。もっともそれがこんな大騒ぎになるとは、思ってもいなかったけどねー」

「じゃあ何だ、お前の親はお前を置いて先に逃げたって事か?!」

 軽い口調で喋る少年は、どう見繕(みつくろ)っても皓と同じ年頃だろう。それなのに。

「仕方ないよ、家には小さい妹や弟も居るからね。それに俺は本当に強いから一人でも大丈夫なんだー」

 ――本当は肉体的に力が強い事と、精神的に心が強い事は全く別の問題なのだけど。

 大人達は総じて自分を強い者として扱うから、怯える弟妹を前に『置いて行かないで』とは、最後まで言えなかった――

「こんな時くらい、家族の役に立たないと」

 口調だけは明るく、けれど決して納得している訳ではないと、一瞬泣きそうに歪んだ顔が、少年の本心を皓に伝えていた。

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