共感する、想い-01(80)
「これは……」
一瞬青年は無事だったのか、と考えた皓の期待は、間延びした少年の言葉に破られた。
「おーいお前、大丈夫かー」
思わず振り返った皓の背後、太い木の幹の上。
さほど皓と変らない年頃の少年が、生い茂った緑の葉に埋もれるようにして、身を潜ませていた。
「苦戦してるんなら、手貸そっかー?」
緊迫感の欠片もないその物言いに、緊張で張り詰めた皓の肩から、自然と力が抜ける。
「そんなに力んでたら、当たる物も当たらないよー」
暢気な口調で辛辣な指摘をした少年に、皓は怒りを覚える迄もなく成る程なと思う。
到着して直ぐに戦況を看破したこの少年は、見かけの印象ほど実際は軽い性格ではないのだろう。
獲物の正確な数を確認するつもりか、再び空高く上昇した黒禽から眼を離さずに、皓は胸の内で逡巡する。
――自分一人では勝算は限りなく薄い。だがこの少年と手を組めば、あるいは――?
『あの距離から矢を放って命中する程の腕前。この技量なら、充分な戦力になる』
それでも普段の皓なら、他人の力を決して当てにはしなかっただろう。
何故なら他人から疎まれ続けた皓の精神は、もはや限界まで傷つき、怯えていたからだ。
だが笙と共に助かるために、生きる為に。皓に迷っている猶予は、ない。
「どうするー?」
皓の答えが解っていて無邪気に問いかける少年の姿は、遠めに見ても整った容貌で、こざっぱりとした服装はどこか裕福な家の子の様にも、皓には思えた。
もしかしたら、少年は立ち向かう黒禽の怖さを、知らないだけかも知れない。
だが現在この状況で、敢えて少年にそれを教える必要性はないだろう。
この危機を乗り超える為に最優先すべき事柄は、互いに協力して黒禽を斃す事。 ただそれだけだから。
「いい所に来た! お前、俺を援護しろ!」
少年に援護を要請しつつ、相変わらず不自然に左右に翼をぐらつかせながら飛ぶ黒禽の姿に、皓は違和感を覚える。
「あの黒禽……?」
「?」
少年は皓の中途半端な台詞に空を見上げて、旋回を繰り返す黒禽を一瞥した。
「確かに動きがちよっと変だね」
「ああ。重心が上手く取れないようだな。あれでは狙い通り動くのは一苦労だろう」
皓や少年に中々攻撃を仕掛けてこないのは、黒禽自身が、思う通りに自らの体躯を操れない所為かも知れない。
「あの黒禽は多分毒か何かにやられている。いまなら俺達二人でも、充分黒禽を斃せる筈だ!」
「かもねー」