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生きる為に-07(79)

 何かを振り切るように深く。

 皓は腹の底から息吹を吐き出すと、愛用の剣を改めて強くしっかりと掌に握り直した。

 そして空いた掌で、笙の頭を出来る限り優しく撫でてやる。

「ここで大人しく待ってられるな、笙。俺はいまから黒禽を(たお)してくる」

「兄ちゃん!」

 悲鳴混じりの言葉を上げた笙に、皓は(なだ)めるように手を握り、静かに言葉を続ける。

「大丈夫、必ず帰ってくるから。俺が闘っているほんの少しの間、お前は黒禽に見つからないように、ここでじっとしてるんだ。出来るな?」

 眼と眼を合わせ黙って頷いた笙の頭をもう一度撫でると、皓は黒禽の見える場所へと移動を開始した。



 弟から少し離れた位置まで移動すると、皓は大声を上げて『餌』である人間の居場所を黒禽に指し記す。

「俺はここだ、来い!」

「ギャァオオオオー」

 皓の上げた雄叫びに気付いたのだろう。

 それまでどこか違う場所を見詰めていた黒禽は、不意に現れた獲物を見つけた幸運に、歓喜の叫びを上げた。

 黒禽は若干勢いを(ゆる)めた翼を小刻みに羽ばたかせると、高度を下げ低空姿勢に移った。

 敵意も明らかに、皓は真っ向から空に浮かぶ漆黒の体躯を睨みつける。 狙うは黒禽の巨大な一本足。

『襲ってくるその瞬間に、足を切り落としてやる』

 魔物の骨から造ったこの剣なら、黒禽の硬い(からだ)も難なく貫き通すに違いないから。

「俺は必ず、生きて笙と帰る!」

 全体重を下半身にかけて、黒禽の巻き起こす風に身体の重心がずれぬよう、神経を集中する。

 急降下して来た黒禽に剣を構えて待受ける皓の遥か後方から、それは何の前触れもなく突然、飛んで来た。




 ヒュン!


「!」

 気配に身を屈めた皓の頭上を、それは緩やかな弧を描きながら通り過ぎ、間近に迫った黒禽の眉間目掛け、迷うことなく突き進む。

 それは黒禽が巻き起こす突風にも勢いを衰える事なく、狙い通り眉間に命中した。

 だがさすがに鋼のごとき硬さを誇る黒禽の体躯は、意図も簡単にその武器を地面へと弾き飛ばしてしまう。

 突然の攻撃に、黒禽は他にも獲物がいると判断したのだろうか。

 屈強な体躯に傷一つつけることなく、再び上昇を開始しながら、悠然(ゆうぜん)と辺りを見廻した。


 一方『カラン』と鳴る渇いた音と共に、勢いよく足元に跳ね返って来た武器を、皓は拾い上げる。

 黒禽目掛け放たれた「それ」は、恐らくは皓と同じ材料を使って作成したと思われる、手製の矢だった。

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