表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/184

生きる為に-01(73)

「解ればいいさ」

 優しいその物言いに何故か心が痛い。

 尚も(うつむ)く皓の頭部を青年は軽く小突くと、顔を上げるように促した。




「いいか皓。これから俺が黒禽の注意を惹き付ける。その隙にお前は弟を連れて逃げろ」

「なっ?!」

「俺は闘えるぞ」と返そうとして、青年に見事に途中で遮られる。

「俺はお前達を護る事だけ考える。だからお前は弟を護る事だけを考えろ」

「けどそれじゃ丸っきり囮じゃねぇか」

 皓の言葉に青年の顔が微かに笑みを浮かべた。

「心配してくれるのは有り難いが、子供は己の心配だけしてろ」

「なっ!」

「大人を舐めるんじゃないぞ」


 町の若者を取り(まと)めるこの青年は、細身の外見には似合わず確か皓に負けるまでは、村一番の使い手だったと聞いた事がある。

 町までの最短距離を皓に手短に口述で教えると、青年は黒禽の旋回する空を見据えた。

「じゃ、俺が先に出で黒禽を(おび)き寄せる。打ち合わせ通り、お前達はその隙に町へ向かえ」

 こちらに向ける真剣な眼差しに、しっかりと頷く事で皓は青年に対する敬意を表すと、笙の掌を今度は二度と離さぬよう強く握り締めた。

「行くぞ、笙」


『助かるために、現在(いま)の自分達に出来る、有らん限りの最大級の努力を、俺達はすべきだ』



 さてどうするかだな……。 青年は横目で皓が静かに移動を開始した姿を盗み見る。

 鬱蒼(うっそう)とした暗い森の中を、小さな笙の掌を固く、強く握りしめながら。

 少しずつ、だが確実に町へと向かう皓の姿が、木々越しに断続的に見えた。

『必ず、二人を無事に町まで帰してみせる』

 青年は、『よし!』と気合いを入れると、足元に無数に散らばる石に眼を止めた。

「そうだ、これで」手頃な大きさの石塊を、地面から素早く数個選び取り、掌に固く握り締める。

 黒禽の注意を、幼い子供から、先ずはこちらに惹き寄せる為に。

「黒禽よ、お前の聴覚を利用させて貰うぜ」



 幼い頃から遊び回ったこの森で、青年に与り知らぬ場所はない。

「あの木にするか」

 ここからそう遠くない場所にある大木を利用する事に決めると、青年はわざと大きな音を立てながら、極力目立つように移動を開始した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ