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黒禽来襲-01(71)

「笙! どこだ!」

 松明(たいまつ)さえない森の中で、小さな子供の姿を探すのは困難だ。

 だが漏れ聞こえる泣き声を頼りに(しばら)く歩くと、大木の根元で震えている笙の姿が確認できた。

 

「兄ちゃん!」

「しーっ」

 震える笙の口を塞いで黙らせる。

 黒禽の聴覚が異様に鋭いのは、奴の馬鹿でかい一つ眼が暗闇では(ほとん)ど機能しないからだと聞いた事がある。

 黒禽が集団から逸れた二人に狙いを定めているのは間違いないだろう。

「ごめん兄ちゃん」

 黙り込んだ皓の耳に、未だ泣きながらも小声で謝る笙の言葉が伝わって。

「違う。悪いのは俺だ」


 笙が(はぐ)れたのは手を繋げと言われた意味を正確に理解しようとしなかった皓の責任だ。

『他人を信用せず、俺が一人で舞い上がった為に、こんな羽目に陥った。これでもし弟に何か有れば、俺は一体どうすれば――』

「けど兄ちゃん強いから、もう安心だね」

 何の迷いもなく言いきる笙の態度に、皓の胸が詰まる。

 いつも何かしらの遠慮している両親と違い、末の弟である笙だけは素直に感情を表してくれる。

『絶対に笙だけは、何としてでも俺が護らなければ』

 襲う不安を振り払うように、皓は笙を強く抱きしめる。

 皓の温もりが伝わって安心したのだろう。

 腕の中で程なく泣き止んだ笙は、涙の乾かない顔で懸命に笑顔を作ると話しかけた。


「これからどうするの、兄ちゃん?」

「黒禽の奴、多分この暗さでは俺達の姿は確認出来ない。現在(いま)奴は音だけを頼りに動いている筈だ」

 出来るだけ静かに移動していけばあるいは。

 いつまでも姿を現さぬ獲物に対し、黒禽が焦れて何処かに違う獲物を探しに行くかも知れない。

 そんな希望的観測を一瞬心の何処かに浮かべるが、黒禽の執拗で残忍な性質からして、それは余りに楽天的な考え方に過ぎず、無傷のまま町へ戻れる可能性は、万が一にも有り得ない事を、皓は冷静に分析していた。

 とにかく現在(いま)は、互いの生存率を少しでも高める為に、町への距離を詰めて行くしかない。


「行くぞ」

 小刻みに震える笙の手を掴み、出来る限り音を立てぬよう、けれど迅速に移動を開始する。

 逃げ込んだ森の奥深く。 地表一杯に生い茂った雑草に、朽ち落ちた無数の木の葉と小枝。

 どんなに注意してもそれらを踏みしめる足音が、逃げた先を黒禽に教えていく手助けとなる。

 事実、頭上で時折聞こえる黒禽の苛立った啼き声は、確実に二人の後を追っていた。

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