表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/184

豊穣祭-03(69)

「……確かお前より俺の方が強かったと思うが」

「!」

 皓の容赦ない言葉に青年の耳が羞恥で染まる。 すらりとした長身のこの男。

 見覚えが有る顔だと思ってはいたが、こいつは何カ月か前に一方的に皓に因縁を吹きかけ、喧嘩を売ってきた相手だ。

「お前だけじゃない」

 周囲を囲っている面々の中に、皓はこれまでに倒した相手が数名含まれている事を確認すると、一人ずつ指し示した。

「お前も……お前もだ」



 皓の噂を聞きつけた彼等にすれば、軽い腕試しのつもりもあったのだろう。

「お前があの戦神(いくさがみ)か」

 この町へ越して来た直後、有無を言わせず売られた喧嘩の数々。

 まだ全身に幼さの残る皓が、倍以上身体の大きい大人達を相手に難なく倒せる筈もない。

 半ば冗談で、半ば本気で挑んだ彼等を、だが皓は容赦なく完膚(かんぷ)なきまで、その身を叩きのめした。



「俺はあんた達には、負けなかった筈だ」

「……」

 順々に己の顔を指し示された男達は、気まずそうに互いの顔を見合すと、最初に皓に声をかけた青年に、口々に言葉を投げ返す。

「放っておけばいい、そんな可愛げのない奴」

「俺達より強いから大丈夫だろ」

「いっそ(おとり)になってみればどうだ?」

 男達の吐き捨てるような言葉の数々に、皓の眼が(すが)められ、握りしめた拳に力が入る。

 ――いつもそうだ。俺は言葉が足りないから、誤解される――

「俺も護衛に回るから」と告げようとした皓の言葉は、男達が吐き続ける遠慮のない罵りを前に、喉の奥で硬く詰まり、もはや音としては出てこない。

「いい加減にしろ!」

 けれど意外にも声を荒げ他の男達を怒鳴りつけたのはあの青年で。

「皓お前もだ! 子供は子供らしく言うことを聞け!」

 まさか皓を怒鳴りつける輩が未だに存在するなど、彼自身考えていなかった。

 実の両親でさえ皓を恐れ、常に顔色を(うか)がっているというのに。

「早く入れ!」

 青年はどこか茫然(ぼうぜん)とした面構えの皓を無理に輪の中に押し込むと、声を張り上げた。

「全員揃った。この班で最後だ、黒禽がこの場所に到着する前に急いで出発するぞ!」





 欝蒼(うっそう)とした森の中は想像以上に暗く、(まと)まった人数が少しずつ移動するため、町までの距離は遅々として縮まらず、

最後尾を進む皓達の面々に、少しずつ、だが確実に焦燥感が芽生え始めていた。

「いいか必ず隣の奴としっかりと、そして強く手を繋げ!」

 万が一にも黒禽に攫われない為の手段なのだろう、大人達の掛け声に、皆が一斉に隣の人間と手を固く繋ぐ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ