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イエン編 終章(62)

「お母さん見て、これ」

 我が子が差し出した虹色に光る卵を見て、母親は大きく驚きの声を上げた。

「お前、これはフェイの卵じゃないか!!」

 綺麗でしょう、と得意げに胸を張る我が子を一通り()め称えた後、母親は卵を受け取った。


「……折角だけど、これは元有った場所に返しておいで」

「えーっ」

 不満そうに口を尖らした我が子に、母親は優しく(さと)した。

「お母さんと(はぐ)れるとお前はとても悲しいでしょう?」

「うん」

 素直に頷く、心根の優しい我が子を前に、母親の口元が(ほころ)ぶ。

「愛情深いフェイもお前と同じ気持ちなの。だから、返しておいで」

「はーい」


 落とさぬよう大事に抱えて卵を運ぶ我が子の姿が、再び出て来たばかりの森へと、消える。

 夕闇の気配がひっそりと漂う中、ふと誰かが傍を翔け抜けたような気がして、母親は空を仰ぎ見る。

 が、勿論空に人の姿など在るはずも無くて。


 見上げた空は珍しく赤紫色に輝いて、雲は漂うようにゆっくりと、穏やかに流れていく。

「お母さーん」

 少しして、千切れんばかりに手を振る我が子を見て、母親は眉を(ひそ)める。

「おや、随分早かったね、ちゃんと返して来たのかい?」

「うん。お兄ちゃんに手伝って貰ったから」


「へぇ、親切な人も居るもんだねえ」

 我が子の様子を見る限り、嘘を付いている訳でもなさそうだし、確かに誰かが、偶然その場所に居合わせたのだろう。

 ……しかし他に人が居るとは、珍しい事も有るもんだ。

 この森は普段から村人以外は立ち入らない、静かな場所なのに。

 まあ、お陰で助かったけれど。


 少し興味をそそられた母親は、我が子に何気なしに訊ねる。

「どんな人だったんだい?」

「とても綺麗な顔をしたお兄ちゃんだったよー」


「お兄ちゃん?」

 何故か上機嫌で答えた我が子の掌を「じゃあ、お家へ帰ろうか」と、母親は優しく握り締める。

「木の上は危ないからねって、代わりに卵を返してくれたんだー。

それでねーお兄ちゃん、用事が済むとこの事は内緒だよって、お空飛んでったんだよ」

「そうかい。じゃあ案外手伝ってくれたのは神様だったのかも知れないね」

 他愛も無い我が子の話を所詮、母親が信じる訳もなく、現実に繋いだ手は、今日も温かい。


 夕暮れの中、家路に向う二人の足取りは、迷うことなく、愛する家族の元へ。

 空を翔る一つの人影もまた、愛する家族の元へ、迷うことなく、真っ直ぐに向っていた。

イエン編は今回をもって終了です。

私のはじめての小説に長々とお付き合い頂き有難う御座いました。拙い文章表現でしたがこの物語を通じて何かを感じ取って頂けると幸いです。一話完結の番外編もありますので宜しかったらお読みください。TOP画面同一作者のファイルよりお入りください。(QRコード下)

63話から時代は遡りまして、主人公は瞭の師匠達のお話、黒禽編となります。

主なテーマは友情と愛情です。

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