表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/184

自明(59)

 或いは皓が遙への気持ちを否定してくれる事を、自分は望んで口にしたのかも知れない。

 然し傍らで大きく頷く皓に、自分で言っておきながら、恭は内心舌打ちしたい気分に駆られる。

 皓が遙に抱く気持ちは、鈍感な皓本人が自覚していないだけで結局、自分と同じ想いだ。

 この先わざわざ教えてやる義理もつもりもないが、鬱陶(うっとう)しい事この上ない野郎だな、と密かに思う。


「だから俺達が大切な人と過ごす時間は、少しも減ってはいない。

……そんな風に自分を責めなくても大丈夫なんだよ、遙ちゃん」

「恭……」

「俺もだ」

 恭だけを真っ直ぐに見詰める遙に、自分の存在が忘れ去られそうで、思わず皓は横から口を挟む。

「俺達はずっと此処に居る。……他の人間と暮らす事は有り得ない」

 遙は居場所のない俺達に居場所をくれた。

 卵でもないのに、余りに強すぎて、異端視されていた俺に、遙は手を差し伸べてくれた。


『それならば、私の屋敷で暮らせば良い』

 そう告げて、鮮やかに微笑んで差し出した遙の掌を、あの日、皓は迷わず選び取った。

 あの時遙が拾ってくれなければ、俺は並外れた強さ故の孤独に、生きる場所を見失い、自分を追い詰め、

やがては壊れていたかも知れない。


 ……俺は遙を必要とし、遙もまた俺を必要としてくれた。だから俺は此処に、遙の傍に居る。

 それは上手く言葉に出来ない、けれど皓の心の底に絶えず存在する、遙への強い想い。


 不器用に黙り込んだ親友の、後を引き取るように恭が軽快に言葉を繋ぐ。

「要するに、二人とも遙ちゃんが大好きなんだよ」

「そう……か。皓と恭に囲まれて、私は幸せ……だな」

 息を付くように囁く遙の声が、照れたように笑う遙が、――どうしようもなく愛しくて。


 目配せの上、二人で一斉に、左右から挟んで抱き締めた。

 俺達の腕の中で一瞬驚いて眼を(みは)った遙は、次の瞬間弾かれたように笑い声を上げて。

 心の中で、誰知らず誓い合った言葉。三人一緒なら、どんな時でも必ず道は開けるだろう。


 ――俺達はこの先、例え何が有ろうとも、必ず三人で一緒に乗り越えて行く――


 ……だから遙の為なら、遙を助ける為ならば、どんな手段を用いても俺と恭は(いと)わない。

 遙が助かるのならば、何を犠牲にしてでも、俺達は必ず遙を護り貫く。

 それが時に遙の意思を無視する形になっても、俺と恭は何一つ迷うことなく、遙を救う道を選択するだろう。


 ――――きっと、何度でも――――




 遙は人から抱き締められた経験が無いらしく、かなり俺達の行動がお気に召したらしい。

 散々笑いあって暫くお互いを抱き締め合った後、余程機嫌が良くなったのだろう、失った寿命はもうどうにもならないのか、

と訊ねた俺達に、遙は隠す事なく、こう告げた。

「お前達の中で私の力は育つ。お前達が生を終えた時に回収させて貰うから」と。

 溶け込んだ遙の命は、完全に消費される訳ではなく、いつもほんの僅かな欠片を、俺達の体内に残すそうだ。


 注ぎ込まれた『力』の欠片は、俺達の内部で長い時間をかけながら、少しずつ成育し、成長した『それ』は再び遙の身体へ還る事で、

彼女の命となり、新たな源となる――

「だから、それ程心配する事ではない。だろう?」

 それは裏を返せば、ある程度長生きしていれば、微弱ながらでも、遙に『力』を還せると言う事に繋がる。

 俺と恭はこの事に気付いて以来、遙の意思を無視して、時々こうして遙に己の『力』を還す。

 ……遙がどんなに嫌がろうと、俺達のこの身体は魂ごと全て、余す事なく遙の物だから。


 


「瞭、大きくなったら、お前も選べ」

 小さくても、遙を護ると言い切ったお前だから。

 何も求める事は叶わない遙の為に、それでも己の全てを失う覚悟が有るのか、否か。

 遙に対して想いを抱える以上、選ぶ時期は、必ず来る。

「師匠……?!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ