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離別(56)

 変わりつつある綺菜の姿を前に、瞭はどうして良いかも解らず、要と綺菜にかけるべき言葉を、必死で探す。

「要……」

 取り敢えず要に呼び掛けたものの、二度と逢えない処へ行ってしまう友に、瞭は後に続けるべき言葉が、思い付かない。

 何か言わなくちゃと焦るばかりで、己の気持ちを表す言葉が中々口を付いて出て来ない。


 こんな形で要と別れるなんて、想像すらした事がなかった。

 いつか何処かでまた逢って、いつまでたってもつまらない事で笑いあって……。

 ずっと要とは親友だと、そう思っていた。

 初めて出来た親友を、こんな形で永遠に失くすなんて――


 この場合、要だけでも人に転生させるべきだったのか、他に選択肢は無かったのか、

遙の出した結論が良い事なのか悪いことなのか、現在(いま)の瞭には、正直、判断がつかない。

 けれど要の何より幸せそうな笑顔を見た時、正しいか間違っているかなんて、そんな事はもう、どうでも良くて。

「どうか……どうか綺菜と幸せに……」

 結局在り来りの言葉しか思い浮かばない自分が悔しくて、瞭の瞳から不意に涙が零れる。




「……瞭」

 整理のつかない瞭の心の中を、要は迷うことなく全部受け入れる。

 自分が遙や、要に対して何も出来なかった悔しさが、瞭の小さな胸を、押し潰していた。

 背負っている重さに負けまいと、早く遙の役に立ちたいと焦る、その気持ちが痛いほど、伝わって。

 ……負けるなよ、と言おうとして、結局止めた。

 瞭ならきっと大丈夫だろう。何故なら、俺達もまた似た者同士だから。


「瞭、忘れるなよ! お前は俺の親友だからな!」

 要の言葉に弾かれたように瞭は顔を上げると、更に溢れ出た涙で、顔をぐちゃぐちゃにする。

 泣き虫の癖に生意気で、意外と負けず嫌いの瞭。短い間だったけれど、共に過ごした日々は、

本当に楽しかった。

「忘れない。……絶対忘れるもんか!!」

 泣きながら絶叫する瞭に連られて、要の眼から、堪えきれず涙が零れた。

「後泣き虫も治せ」

「何だとー!」


 他人の本心が視える要だからこそ気付いた真実。同じ想いを抱いた要には、瞭の気持ちを(すぐ)に理解する事ができた。

 きっと本人すら自覚していない淡い、けれど確かな想いが、瞭の胸の中で密かに育っていた。

 ……瞭、いつか遙が、お前の気持ちに気付いたら良いな。


「要、次はお前を」

 遙は綺菜から離れ要に近づくと、眼を閉じるように告げ、淡い光が宿る掌をそっと要に(かざ)した。

 ゆっくり眼を閉じた要の身体に、綺菜と同様の変化が始まる。

 細い両腕は翼に変わり、全身は瞬く間に真っ白な羽毛に、余すところなく覆われていく。

 眩い光にいまや全身を包まれた要の姿は、人から人では在らざる物へと、変化を遂げつつあった。


「瞭、遙……本当に有難う」

 輝く光の中、微かに呟いた要の声は、最期の言葉となって、遙と瞭の心に直接届けられて。

 やがて、綺菜と要を覆っていた輝き全てが収まると、光の中心に、一対のフェイの姿が現れる。

 神々しいまでの気高さと、その白く美しい姿は、絶滅したフェイを忠実に再現していた。




「元気でねー!」

 地上で千切れそうなくらい手を振る瞭に、二匹の鳥は名残惜しそうに何度か空を旋回した後、

翼を広げ何処(いずこ)へとその姿を消した。

「……お礼を言わねばならないのは、私なのにな」

 要と綺菜が仲良く飛び立った方角を見ながら、小さく呟いた一言に、遙の隠された心の痛みを、瞭は感じ取る。

 まだ幼い瞭には、遙の痛みの意味までは、正確に理解は出来なかったけれど。

 それでも、傷ついている遙を慰めたくて、瞭は黙って遙の手を、しっかりと握り締めた。

「瞭……?」


 不意に手を握った瞭に不思議そうな(かお)をしつつ、遙は何処か安心したように、微笑む。

 自分に微笑んでくれた遙に笑い返そうとして瞭は、遙の貌色の悪さに、思わず眼を(みは)った。

 瞭が何か言葉を掛けようとした瞬間、耐え切れず遙の華奢な身体が、ぐらりと揺れた。

「遙っ!」

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