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遙から得たもの-02(139)

「必ず敵だけを斬ると、信じ込め」

「えっ? だって誰が敵なのか解らない場合は、どうすれば良いの?」

 恭が思わず漏らした危惧に、皓も大きく頷く事で賛同する。

 見知らぬ顔の味方が戦場で皆無とは、さすがの彗でも言い切れないだろう。

 依頼主の意向により、その場限りの傭兵が混じる場合も有るのだ。

 それに仲間だけの屋敷内においても、皓と恭に取っては初対面の人間が、未だに数多く存在する。

「言っておくがな、俺だって団体戦になれば、誰が仲間で誰が敵なのかなど、一々確認している暇も余裕も、ない」

「では間違えて仲間を斬ったりする危険性は、ないのか?」

 いくら思い込んだところで、実際に仲間を傷付けてしまえば、弁解のしようがないのでは?

 皓の当然とも言える質問に、彗は「ふっ」と尊大な笑みを片頬に浮かべると、即座に答えを投げ返した。


「その為に俺達には、遙から貰った『力』が存在する」

「遙からの『力』?」

 力を利用すると言う意味が、今一つ掴めていないのだろう。 首を傾げた皓と恭に、彗は尚も説明を続ける。

「いいか。ある程度遙の力を使いこなせるようになると、人間や魔物の魂を、色として識別出来る様になる」

「色? 一体何処にそんな必要が有るんだ?」

 姿が見えている敵を、わざわざ色に置き換える意味が良く理解出来なくて、皓と恭は軽く戸惑いを覚えながら、疑問を口にする。

 魔物は此方の精神を読み、時として親しい人の姿を、忠実に象る場合がある。

 あるいは逆に見知った人間が、突然魔物に変貌を遂げる場合もあるだろう。


「親しい人間や、良く知った人間が、ある日を境に敵に廻るのだ」

「……」

 記憶の中に有る穏やかな姿に惑わされぬよう、魂だけを色や形として捉える視界に、意識的に切換える。

「つまり外見の容姿を、視界から消してしまうのだ」

 内面の魂だけが見える特殊な視界。 そこに、堕ちて揺らぐ、異質で醜い魂の欠片達。

 悪意や攻撃的な意図が強ければ、魂は赤い色を帯び、魔物や闇に囚われた魂は、どす黒い、闇の色を帯びて、存在する。

「仲間や正常な魂は、大概において青白い炎の形を取っているから、それ以外の色を斬ればいい」

「色で識別してるなんて……」

「もし、仲間で青色以外の色がいたらどうする? 魂が一律に同じ色を纏うなど有り得ないだろう?」

 現に皓の村では、魂の形や色は、人それぞれが歩んだ生き方によって、異なる物だと教わった。


「……眩い金色と、青い炎以外は例え仲間でも斬れ。……そいつはいずれ仲間を裏切る」

「!」

「確かに皓の言う通り、実際には様々な魂の色が存在するのだろう。だが、契約を交わした眼に映るのは、味方は青。それ以外は敵でしかない」

 仕組みの程は誰にも解らない。

 過去に己が見た色を疑って、相方を見逃した男がいたが、そいつは案の定、後に狂った相方の手にかかって、殺された。

「……」

「酷な言い方だが、相方を務める仲間の魂の色は、戦闘中は常に確認しておく事を、俺は勧める」

「……どうして戦闘中なの?」

「戦闘に紛れて確認すれば、己が相方を疑っている事が、もっとも気付かれにくいからだ」

 通常の生活の中で『力』を発動すれば、敏い相手なら直ぐに此方の意図に気付くだろう。

 だから戦闘に紛れて、敵の魂と同時に確認をするのが、一番賢明な方法だと言える。

「何も悪い事だけじゃない。魂の色の確認は仲間が力を遣いすぎているかどうかの判断にも繋がるから、暴走を防げる場合もある」


『常に余力を残して闘う事が、結局は互いを護る近道だ』 いつか斎が講義で告げた言葉。

「……解かった。常に確認すればいいんだな」

「ふん?」

「皓?」

 仲間に対してそんな事が出来るかと、頭から反発するだろうと予測していた皓から、意外な言葉が洩れた事に、恭と彗が思わず皓へと視線を流す。

「なら俺は仲間を疑う訳ではなく、仲間を救うために、皆の魂の色を確認するだけだ」

「……」

 ――何処までも真っ直ぐな皓に、少しは折れる事を知れと言うのは、不可能なのだろう。

 生きてきた年月にもよるのだろうが、皓の魂は余りに(しな)る事を知らなさ過ぎて。

『羨ましくも有り、疎ましくも有る、な』

 彗の胸を占める想い。 まだ若い己自身も『(せい)』を感じる為に、足掻いていたいのだろう。

 斎のように何もかもを己の中で諦めて、ただ漫然と遙の隣で生きて行きたくはない。

 だが皓を前にすると、いつの間にか己が色褪せ始めた現実を、否応なく突き付けられて。

『斎、案外俺達は長く生き過ぎているのかも、知れんな』

 込み上げる、形の知れぬ切ない感情に精神が支配される前に、彗は意識を切り替えると、再び声を上げた。




「話が随分逸れたな、一旦元に戻すぞ」

「ああ」

 変わらず真剣な視線を向ける皓と恭を前に、彗は突然己の剣を手に取ると、正面で構えて見せた。

 片刃には一般的な刃を。 残る片刃には、揺れる焔を見立てた両刃作りの、彗だけが持ち得る大剣。

「彗……?」

 怪訝そうな表情を浮かべた二人に、彗は改めて基本的な質問を投げかける。

「お前達は俺の武器が、何から出来ているか、知っているか?」

「何から……って」

 彗が持つ特殊な武器が、一般的な素材で出来ていないのは、考える迄もなく確かだろう。


 答えに詰まって互いの顔を見合わせる皓と恭に、彗はここぞとばかり、大袈裟な溜息を零すと肩を竦めて見せた。

「出来の悪い弟子を持つと師匠は苦労するなぁ」

「――誰が師匠で、誰が弟子だ!」

 読み通り、すかさず噛み付く皓に笑いを浮かべつつ、彗が「良く見てろよ」と呟いた瞬間。

 眼の前に存在していた筈の彗の武器が、不意に揺らぐと、霞か何かのように霧散した。

「なっ!?」

 驚愕の余り、言葉すら満足に上げれない二人の様子をせせら笑いつつ、彗は再び強い気を己が開いた掌に込める。

「!」


 開いた大きな彗の掌。 陽炎のように不安定に揺らめく炎が芽生え、何かをゆっくりと模り始める。

「不肖の弟子の為に、特別に遅く作ってやるが、実際は一瞬だ」

「これは……」

 炎が何度も描き出すこの形は……。

 幻影越しに流した視線の先、頷いた恭の気配を感じながら、皓は目の前の出来事から眼を離せない。

 輝きながら巻き上げる青白い炎は、やがて硬質の剣と化して、その姿を確かな存在へと変えていく。

「どうだ?」

「……」

 眩い光が途切れた後、そこに現れた物は紛れもなく、先程の剣に違いなくて。

「覚えておけ。遙の『力』を使うと言う事は、こう言う事だ」

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