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遙との契約-01(116)

「以前にも聞いたが、お前達は私との契約について、どこまで知っている?」

『誰にも見つからないよう内密においで』と遙に呼び出され、何の用事かと来てみれば。

 前後の説明もなく、いきなり繰り出された遙の問いに、皓と恭は互いの顔を見合わせる。

「どうした?」

 何故答えない? と不思議そうな表情の遙に、恭が皓の脇腹を軽く小突いて、答えを促す。

「あー確か、遙と契約を結ぶと、永遠の命が貰えて、屋敷に住む事が許される、だろ?」

「奇蹟の力を与えて貰うのと引換えに、魔物退治やその他の仕事を手伝う、かな」

「どちらも正解であって、正解ではないね」

「?」

「まあ、講義は後々斎にみっちり仕込んで貰うとして、私は私に出来る説明をしようか」

「遙ちゃん、講義って何?」

「ああ、屋敷には屋敷独自の決まり事や、考え方が存在してね。お前達にもそれをまず学んで貰わなければならない」

 どちらにしろ、遙と契約を交わさない事には、何も始まらないのだ。

「お前達は感染という言葉を知っているかい?」

 不思議そうな表情を浮かべた二人を前に、遙は契約について正しい事を教えよう、と穏やかに切り出した。

「契約はお前達の自由意志だから、私の説明を聞いてから考えると良いだろう」

 皓と恭が軽く頷いたのを確認してから、遙は話を始めた。


「契約とは簡単に言えば、私の一部をお前達に分け与え、お前達を創り変えてしまう事だ」

「俺達を創り変える?」

「……ただお前達に分け与えるべき私の身体は、一つの大きな病原体なのだ」

 この異分子は遙の血や体液を通して、『契約』と言う名の下に対象者の身体の奥深くに入り込み、遺伝子情報を根底から書き換えてしまう。

 遙に極めて近しい身体へ、つまり人間(ひと)に在らざる者へと、その身を変えるのだ。

「つまりお前達は私に感染し、発病するのだ」

「遙ちゃんその言い方はちょっと……」

 自を病原体だと公言する遙に、抵抗感を覚えたのだろう。 話しの途中にも関わらず、恭が口を挟む。

「そうか。解り易い例えだと私は思っているのだが」

 ――それに私が病原体だと言う事は、確かな事実なのだよ。

 お前達の身体に己の一部を寄生させ、育ったそれを再び取り入れる。

 人間の生身の身体を利用し、培養させるなどど、正常な精神では先ず、考えも及ぶまい。

 ……本当に私は何故あの時、來の言葉に軽々しく頷いてしまったのだろう――

「遙?」

 真剣な表情の皓に、頬を軽く撫でる様に叩かれて、遙は意識が現実から逸れていた事を自覚した。

「ああ……済まない。話を続けよう」


「?」

「契約によって、異分子を己の身体に取り込む事までは、理解出来たな?」

 同時に頷く二人を見遣り、遙は再び説明を開始した。

「一度の取り組みで終われば話は早いのだが、一度に沢山の異分子を身体に受け入れれば、当然、生体としての拒絶反応が(あらわ)れる。だから飽くまでも個々の許容範囲を超えない程度の分量を計測し、数回に分けて少しずつ、お前達に私の力を与えるのだ」

「じゃあ俺と恭でも回数は違ってくるって事だな?」

「ああ。全く同じと言う事は経験上有り得ない」

「へーそうなんだ」

「私の血がお前達の身体に完全に馴染み、与えられた擬似的な力を己の物として使いこなすまでに数年はかかるだろう。またその間、私の血を定期的に補給せねば、お前達の身体は変化の途中で制御を失い、たちまち異形の者と化してしまう」

「異形の者……」

 飢えと苦しみに苛まれた状態でさ迷う魂の救いは、死する事しかない。

「だから良いか皓、そして恭。心せよ。私が良いと言う迄、決して私を拒んではならない」

「遙ちゃんの血や体液を、俺達が受け入れる……」

「そう契約をもって私達は交じりあい一つになるのだよ。……但し卵は生来からの契約者故、お前達は卵ではなく、皆から申し子と呼ばれる存在になるがね」

 申し子、それは同時に、昔人間であった証名(あかしな)

 人間(ひと)としての(ことわり)を捨て、遙に全てを委ね、魂すらも帰属させる。

「これからは、お前達の吐き出す息の一つすら、全て私の物だ」

 告げて笑う遙の顔は、何と傲慢で、何と美しい事だろう――

「契約の解除ならいつでも応じる故、無断で血を断つ事だけは絶対に避けよ。解ったな?」

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