与えられた、試練-03(102)
「恭……一体?」
「皓……俺達は……」
途中まで呟いて、何故かその先を躊躇った恭の言葉に呼応する形で、傍らの男が口を開いた。
「俺達は身の程知らずの、大馬鹿者です」
「何っ!」
先程心配げに声を掛けてきた男から、突然嘲りの言葉を浴びせられた皓は、激しく憤る。
「皓、違う」
「?」
恭が力の無い否定の言葉を吐くと、殊更ゆっくりと皓と男に、自分の背を向けた。
「俺は、どう?」
「自分の実力すら把握出来ていない、未熟者です」
口を大きく開け、言葉を失った皓の代わりに、再び男が嘲りの言葉を声に出す。
「!」
見も知らぬ男から、侮蔑の言葉を容赦なく浴びせられ、普段の皓なら即、乱闘騒ぎになった事だろう。
が、皓は男に言い返す事もせず、ただ茫然と恭の背中を見詰めるばかりで、行動を起こす事すら出来なかった。
恭の背中に投げかけて、瞬きすら忘れた、視線の先で。小さく揺れる白い紙。
皓が突然動けなくなった全ての元凶は、その紙にあった。
背中の中程に貼られた紙に、黒々とした流暢な字で描かれた、恐らくは遙からの言葉。
男は単にそれを、音として読み上げただけに過ぎなかったからだ。
「くうぅぅ! ……確かにねー」
身悶えしながら、男に言葉を返す恭の様子に、漸く皓の止まった思考が動き出す。
「一体、いつの間に……」
「因みに皓の背中には、さっきその人が言った通りの言葉が貼ってある」
「!」
「つまり俺達は、遙にご丁寧に麓まで送り返された揚句、背中に有り難いお言葉まで戴いた、って事だよね」
「あー、あんた達、遙様のところからのお帰りか。どうりで空から降ってくる訳だ」
呑気に呟いた村人の一言に、皓の背中が一瞬、隠しようが無いほどに大きく波打つ。
『但し、勝負に負けた場合、即効でこの場所から出ていって貰うが、構わないな?』
即効で出ていって貰うって……イシェフまで俺達を吹き飛ばすって意味か!
「――」
怒り心頭に達しているのだろう。言葉が出ない分、握りしめた皓の拳が、激しく震えているのが、間近に居る恭には、
見て取れた。
やがて戦慄く唇から漸く生まれた、搾り出すような、皓の低い声。
「おのれ、遙! 憶えていろよ」
「皓、それって完全に悪役の台詞だし」
「くそー!」
一度吐き出した言葉は留まる事を知らず、皓は辺り構わず、喚き散らした。
「皓?!」
止める恭の言葉も無視して、ひたすら思いつく限りの罵詈雑言を、皓は届く筈もない空に向かって、大声で叫ぶ。
……けれど散々遙を罵るだけ罵って、流石に浮かぶ言葉も尽きたのだろう。
皓は突然くるりと背を向けると、唖然とした恭一人をその場に残し、歩き出した。
「あぁ! 待って皓! なんで俺を置いて、行っちゃうんだよ?」
背中にかけられた、恭の悲壮感漂う叫びを無視すると、皓は一人前へと足を進めた。