表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/184

与えられた、試練-03(102)

「恭……一体?」

「皓……俺達は……」

 途中まで呟いて、何故かその先を躊躇(ためら)った恭の言葉に呼応する形で、傍らの男が口を開いた。

「俺達は身の程知らずの、大馬鹿者です」

「何っ!」

 先程心配げに声を掛けてきた男から、突然嘲りの言葉を浴びせられた皓は、激しく(いきどお)る。


「皓、違う」

「?」

 恭が力の無い否定の言葉を吐くと、殊更ゆっくりと皓と男に、自分の背を向けた。

「俺は、どう?」

「自分の実力すら把握出来ていない、未熟者です」

 口を大きく開け、言葉を失った皓の代わりに、再び男が(あざけ)りの言葉を声に出す。


「!」

 見も知らぬ男から、侮蔑の言葉を容赦なく浴びせられ、普段の皓なら即、乱闘騒ぎになった事だろう。

 が、皓は男に言い返す事もせず、ただ茫然と恭の背中を見詰めるばかりで、行動を起こす事すら出来なかった。

 恭の背中に投げかけて、(まばた)きすら忘れた、視線の先で。小さく揺れる白い紙。

 皓が突然動けなくなった全ての元凶は、その紙にあった。

 背中の中程に貼られた紙に、黒々とした流暢(りゅうちょ)な字で描かれた、恐らくは遙からの言葉。

 男は単にそれを、音として読み上げただけに過ぎなかったからだ。


「くうぅぅ! ……確かにねー」

 身悶えしながら、男に言葉を返す恭の様子に、(ようや)く皓の止まった思考が動き出す。

「一体、いつの間に……」

「因みに皓の背中には、さっきその人が言った通りの言葉が貼ってある」

「!」

「つまり俺達は、遙にご丁寧に麓まで送り返された揚句、背中に有り難いお言葉まで戴いた、って事だよね」

「あー、あんた達、遙様のところからのお帰りか。どうりで空から降ってくる訳だ」

 呑気に呟いた村人の一言に、皓の背中が一瞬、隠しようが無いほどに大きく波打つ。


『但し、勝負に負けた場合、即効でこの場所から出ていって貰うが、構わないな?』

 即効で出ていって貰うって……イシェフまで俺達を吹き飛ばすって意味か!

「――」

 怒り心頭に達しているのだろう。言葉が出ない分、握りしめた皓の拳が、激しく震えているのが、間近に居る恭には、

見て取れた。

 やがて戦慄(わななく)く唇から(ようや)く生まれた、(しぼ)り出すような、皓の低い声。


「おのれ、遙! 憶えていろよ」

「皓、それって完全に悪役の台詞だし」

「くそー!」

 一度吐き出した言葉は留まる事を知らず、皓は辺り構わず、喚き散らした。

「皓?!」

 止める恭の言葉も無視して、ひたすら思いつく限りの罵詈雑言を、皓は届く筈もない空に向かって、大声で叫ぶ。

 ……けれど散々遙を(ののし)るだけ罵って、流石に浮かぶ言葉も尽きたのだろう。

 皓は突然くるりと背を向けると、唖然とした恭一人をその場に残し、歩き出した。

「あぁ! 待って皓! なんで俺を置いて、行っちゃうんだよ?」

 背中にかけられた、恭の悲壮感漂う叫びを無視すると、皓は一人前へと足を進めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ