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与えられた、試練-02(101)

 遙が本気を出せば、そもそも戦闘として、成立すら成し得なかっただろう。

 一瞬で終わる相手を前に、遙が直接手合わせをする理由など、何処に存在するのか? 

『第一これでは試験にすら、なりはしない』

 そう考え、自ら相手を買って出ようとした斎を無理に遮って、遙は小声で囁いた。


「大丈夫だ。彼等程度なら、力を使う必要もあるまい」

「いや遙、問題が違う」

 余計な負担をこれ以上、遙に与えたくはない。 何もかもを遙が一手に対応する必要は、何処にもないのだから。

『遙、本来護られるべき立場に居るのは、一体どちらなのだ――?』

 そう告げたところで、遙は、自分は他人から護られる立場ではないと、真っ向から否定するだろう。

 遙からの返答が解っている分、胸の中の想いを言葉には出来なくて、斎は黙り込む。


「斎、『私』が、彼等の相手をしなければいけないのだよ」

 黙り込んだ斎に、遙が言葉を強調する。

 何か隠された理由を言外に感じて、斎は遙を見つめたが、いつも通り遙は、理由を特に説明する訳でもなく、

微笑んだだけで全てを終わらせた。

「……相変わらず、説明する気はない、か」



『済まない、斎』

 ほろ苦い笑みを、微かに頬に刻んだ斎を横目に捉えつつ、遙は彼等をさらりと観察する。

 目の前に立つは、あの日より、精神も身体も随分大人になった二人。

『この人間、確か名を皓と言ったな』

 結局見据えた未来は正しい道を選び取り、啓示された定めに取り込まれた彼は、時が満ちた現在(いま)

真っ直ぐに此処に居る。

『そう言う訳か。本当に馬鹿な子だね』

 違う未来も有ったのだ。 わざわざ辛い道を選択する必要は、何処にもなかっただろうに。

『……これでは選択の意味がない』

 苦い笑いと共に同じ台詞を呟くのは、あの日と見事に重なる状況で。


 あの日、自分を取り巻く運命に翻弄(ほんろう)され、ただ泣き喚くだけの子供だった彼は(ようや)く叫ぶのを止め、

自らの掌で明日を掴み取ろうと、全力で動き出している。

 一時(ひととき)の過去、見据えた未来。 遙が受け入れるべきは二人の子供。

 彼等は再び出逢い、揃って此処に来た。

『……本当は斎に全てを任せてしまっても良かったのだけれど。いい加減、お前達と真剣に向き合う時期が、私自身に訪れたようだから』

 見詰める斎に軽く頷いて。 遙は唇に余裕の笑みを刻んだまま、二人を正面から迎え打って出た。

「お前達の実力! 私が直に試させて貰うぞ!」





「おい! おいったら!」

 耳元で誰かが執拗に放つ言葉に、皓は薄っすらと閉じていた瞳を開く。何故か視点の定まらぬ眼に、

朦朧(もうろう)とした意識が追い討ちを掛けた。

「……」

 視界一杯に映る青い空を、ぼんやりと、大した意味も持たず眺めながら、再び瞳を閉じようとした瞬間、

又しても声を掛けられた。


「お前さん達、大丈夫かね?」

 大声が一つ。視界を埋め尽くした青空を遮って、急に真上に現れた男から、心配そうな言葉が降ってきて、

現状が把握できない皓は、激しく戸惑いを覚える。

「!?」

 辺りに視線を彷徨わせると、地面に倒れ伏した恭が、別の誰かに助け起こされている状況が、見て取れた。

『俺達は意識を失っていたのか?』

「起きれるか? ほら」

「……いや、大丈夫だ」


 眼の前に差し出された手を断りながら、皓は仰向けに倒れていた自分の身体を、鈍い痛みと共に、

ゆっくりと地面から起こした。

 全身を見渡したところ、どうやら酷い打ち身だけで、骨には異常がないようだ。

『確か俺達は遙と勝負していた筈なのに、一体全体ここは何処だ?』

 皓の視線を受け止めて、不可解な表情を隠す事なく顔面に浮かべた恭は、黙って首を横に振った。

『……だな。恭にも解る訳がないか』

 自分達を介抱してくれた親切な男達に、ここは何処だと、皓が尋ねようとした矢先。

 理由が解らぬまま、取り敢えず周囲を観察していた恭が、一言疲れたように呟いた。


「ここ、イシェフじゃないかな?」

「!」

 驚いて言葉が出ない皓に、重ねて何か話そうとした恭の横顔が、瞬時に強張る。

「どうした恭!」

 一点を凝視したまま、固まった恭の態度に驚いて名を呼ぶが、何故か恭は皓の呼び掛けに耳を全く貸さず、

今度は凄い勢いで自分の背中を振り返り、更に凍りついた。

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