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与えられた、試練-01(100)

「!」

 驚く人間を透かし見て、閉める扉の薄い隙間。

 覗いた微かな空間から、後ろに控えた仲間と眼が合って、斎は軽く頷くと、忠実な仲間を労った。

「他人の家の扉は勝手に開けない事だな。踏み込んだ先で何が有るかわからないぞ?」

 ……彼等があのまま、屋敷内に一歩でも足を踏み入れていたならば、恐らく命は無かっただろう。

 斎が仲間に下した命はあくまでも、「屋敷の外に居る彼等を攻撃してはならない」だったのだから。


「一応、扉にも結界を張っておいたのだが、お前達には通用しなかったようだね」

 斎の言葉で、屋敷内の仲間の様子を察したのだろう。斎の後を取って言葉を続けた遙の声は、

未だ緊張が取れず、硬いままだ。

『まさか扉まで簡単に開けてしまうとは、考えもしなかった。彼等の能力は一体――?』

 (かお)を上げて真っ直ぐに。此方を言葉も無く凝視する彼等の視線を、遙は正面から受け止める。

 青年期を迎えたものの、顔にはまだ若干、幼さが残っている二人の人間。急ぎ確かめた魂魄は、

間違いなく、彼等をあの時の子供達だと証明していた。


『彼等はあの日の約束を、覚えていたとでも言うのか?』

 少なくとも彼等の内の一人。皓の記憶は、全て自分が消した筈だ。なのに、何故?

 疑問と動揺を押し殺し、表面上は何の感情も見せず、遙は二人に質問を投げかけた。

「どうした。 口でも聞けなくなったか?」

 扉に手を触れたままの状態で、動かなくなった皓と恭に、遙は軽く微笑んで見せる。

 敵意感じさせない、浮かんだ優しい笑みに、少し緊張が解けたのだろう。

 皓は扉から手を離し、口を開いた。


「お前、遙だよな!?」

 何度も唾を飲み込んで、漸く皓の口から発せられた言葉に、斎が鋭い視線を投げかける。

「良い。大丈夫だ、斎」

 皓の無礼な物言いに対し、動きかけた斎を、遙は片手で制止すると、大きく頷いた。

「確かに私が遙だが、何の用件だ?」

 表向きは言葉の応酬を。けれどその隙に、爪先から髪の先まで、遙は彼等の身体を隈なく透かし見る。

 先ずは此方を向いている皓の身体を。そして扉に手を掛けたまま、遙の微笑に魂を奪われ、動けない

恭の身体を。


『やはり卵ではない。彼等には有るべき印が刻まれていない』

 身体中の何処にも、何もない。ならばどうして結界は彼等を受け入れた――?

 導き出される答えは一つしかなく、同じ様に彼等の身体を調べ終えた斎と、目配せを行う。

『遙、彼等を引き取るべきだ』

 言葉には出さず、視線を通じて直接精神に流れる斎の言葉に、遙は逡巡を隠せない。

『能力的にも、申し分はない』

 同時に視た、彼等の精神に宿る力は、人間にしては随分と大きく、明るい光だった。


『屋敷まで辿り着いた経緯を考えると、肉体的にも何ら問題は無いしな』

 当たり前のように彼等を受け入れようとしている斎に、しかし遙は反対の意を唱えた。

『彼等を引き取るのは至極簡単な事だろう。けれど彼等は私達と違い、人間だ』

『……なら試験を。彼等もこのままでは引き下がれない』

 自分達が思考を交わす、この僅かな時間でも、皓の必死さは、充分に伝わってきた。

 並外れた強さを保持し、恐れられても、決して卵ではない彼等に、世間の反応は随分と厳しかったようだ。

 周囲に溶け込めぬ魂。どこか他人とは違う自分。

 必死で訴える皓の思いは、遠い過去、斎がまだ人間社会に居た頃の記憶を、斎の脳内に呼び覚まして。


 斎は幸いにして卵だったから、事実が発覚した時点で、何の問題もなく遙に引き取って貰えた。

 だが、遙に出逢う迄の間に、一体どれほどの苦しみを味わった事だろう。

 斎が悩み苦しんだ期間は、彼等と比べ、随分短い。条件も違うから、引き合いに出すのは筋違いだろう。

 けれど。


『遙。彼等をこのまま地上へ送り帰すのは、余りにも無慈悲な行いではないか?』

『だが』

 物事を客観的にしか捉えられない遙には、彼等が置かれた辛い状況を、中々理解出来ないのかも

知れない。

 些細な感情を理解出来ない遙は、彼等が歩んで来た道に己を重ねる術を持たないからだ。

 しかし彼等の孤独が容易に推し量れる斎には、地上へ帰れとは、流石に言えなくて。


『俺が直に戦って、彼等の実力を探るのが一番良い方法だろう。判定は試験を見た遙が、その場で下せば良い事』

『……』

 理由付けなど後で幾らでも考えれば良い。今は彼等の気持ちを納得させるのが先だ。

 それに試験の結果次第では、彼等を本当に仲間へと向かい入れる事も検討すべきだ。

 渋る遙を相手に斎は早々と話を締め括ると、代替え案がないことを理由に、遙に賛同を求めた。

『……解った』

 だがしかし。迷いながらも(ようや)く頷いた遙の返事を、了承と受けた斎が行動を起こすより尚早く、

遙の唇から言葉が発せられた。


「皓、ならば私と勝負をしよう」

「勝負だと?!」

「遙!?  勝負をするのは貴女ではなく――」

 叫ぶ斎を無視して、遙は皓に言葉を続ける。

「屋敷に滞在する条件はただ一つ。私に勝つ事だ。お前達の引けぬ事情も解るが、私も自分が管轄する屋敷に、

安易に人を住まわせる訳には行かなくてね」


「……面白ぇ」

 遙の申し出に、一瞬にして蒼白な表情を浮かべた恭とは対照的に、皓は期待に眼を輝かせ、

好戦的な表情を、隠す事無く満面に浮かべた。

「武器は好きな物を使うと良い。戦い方も自由だ。一人ずつでも、二人で纏めて向ってきても、

私は一向に構わない。お前達の好きにすれば良い」

「本当だな!」

 意気込む皓に、軽く頷いてから、遙は「但し」と注釈をつけた。

「但し、勝負に負けた場合、即効でこの場所から出ていって貰うが、構わないな?」

祝! 100回目の連載です。ただただ皆様に支えられて、ここまで辿り着くことが出来ました。

感謝の気持ちで一杯です。これからもどうぞ宜しくお願いします。

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