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イエン編 序章(01)

◆はじめに◆

当作品は一人称を使用せず、紙書籍でお馴染みの作者視点を使用しています。

作者視点(人称と視点が一致しない)を読み慣れていない方は視点の混乱を招きやすいので、携帯小説向けに視点を簡略化した作品を下記URLで公開していますから、そちらをご覧下さい。

http://id28.fm-p.jp/67/TENKUU/ ←黒禽編のみ公開中(初めて読まれる方にはこちらを強くお勧めします)



当サイトには2本の作品がありますが、いずれも純ファンタジー小説となっております。

テーマが重いシリアスな小説ですので、サクサクと読めるラノベ小説をご覧になりたい方は、恐れ入りますが、当作品は該当いたしませんので、引き返しをお願いします。

また大人向けの純ファンタジー故、会話よりも説明文が多く、展開も非常に緩やかです。

漢字・句読点も多く、ラノベ以外の本を読み慣れていないと難しいと感じる内容だと思われます。



特にイエン編は謎解き要素を含みますので、話の流れが非常に緩やかな作品です。

そして前半部分は伏線が多く、後半部分で一気に謎を解明する作りとなっていますので、最後までお読み頂かないと、面白みが伝わらない作品です。

全話を読まれる方を対象に作っています。その点を了承された上で、腰を据えてご覧下さい。

推理好きな方・感動を味わいたい方はこちらをお勧めしていますが、飛ばし読み・ザラ読みされると理解し難い内容ですので、該当する方はお引き返しをお願いします。



また処女作の為、修正すべき点が沢山御座いますが、高村の病状的に、イエン編については指摘を頂いても改訂が困難な状態です。

読めないと感じられた時点で、恐れ入りますがお戻り頂くか、改訂版が出るまでお待ち下さい。



少しでも展開が早いお話が好きな方は63話からの黒禽編をお勧めします。

ですが所詮純ファンタジーですので、話の内容にそぐわない強引で急な展開はありません。

こちらは恋愛要素を含みますが、イエン編よりは若干軽く、ラノベとの融合を目指した内容となっております。



以上の注意点を踏まえた上で、お読みいただけたら幸いです。

どちらの作品から読まれても支障は御座いませんので、お好みの作品をどうぞ。











 永く生きていても、行う全てのことが正しいとは限らない。





(はるか)。ねぇまた唄声が聞こえるよ。綺麗な声だね」

 いつもの休憩時間に地面に直接座り込んでおやつを食べていた子供は嬉しそうに呟いた。

 そういう彼も子供独特の綺麗な声だ。九〜十才位だろうか。


 スラリと伸びて均整の良い体は、彼の未来を簡単に想像出来るほど、既に整っている。

 端正で中性的な顔立ちの為か、遠くから見ると性別の判断に困る容姿だが、間近で彼を見ると、

まず性別を間違える者は居ない。

 何故なら腕白そのままの笑顔とは対照的に、瞳に宿る意思の強さが、彼を幼いながらも

男に見せていたからだ。


 それに彼の性別を間違えた者は、皆一様に後頭部を一撃されると言う点も大きいだろう。

 現に村の殆どの人達は、過去に彼の攻撃を喰らって以来、冗談でも彼の容姿をからかった事は無い。

 要するにそれくらい手加減無しで、彼は村人を片っ端から一撃してきた訳である。



(りょう)。……喰うか喋るか、どっちかにしなさい」

 隣で椅子に腰掛けていた遙が保護者めいた言葉を口に出す。言葉通り年齢は瞭より十歳位は

上だろうか。

 瞭の薄茶の髪に対し、こちらは見事な肩までの黒髪で、より中性的な顔立ちだ。

 整ったその(かお)は性別を超えてどこか人間離れした――そう精工に出来た人形を想像させる程だ。

 声音も男女の区別がつき難く、体の線からも性別を想像するのは難しい。


 実際、不思議な事に遙の姿は、遙を見た側が男性ならば女性に、女性が見れば男性に見えるという

変わった特徴がある。皆に共通する印象は、漆黒の髪に、鮮やかな碧の瞳だけ。

 年齢すら、見る側の人の好みが反映されるらしく、区々(まちまち)だ。年齢も性別も不詳――――


 怪しいことこの上ないのだが、遙の存在を知らない者はまず、この世界には存在しない。

 何故なら、この世に生を受けた時から、繰り返し聞かされる沢山の物語は、遙の存在を指し示すものに、

他ならないからだ。


 ――――それは遠い昔から、人々の間に(まこと)しやかに語り継がれる、古の神々の物語。

 

 創世当初、複数存在した彼等は、度重なる思想の違いから、いつしかお互いの(たもと)を別ち、

顔を合わさぬよう、月と太陽に別れ、それぞれを別に司る事になった、と伝承されている。

 永遠にも近い時間をこの惑星で過ごす内に、彼等の数は次第に減少し、

(つい)に二人だけになってしまった神の名は、広くこの世界に認知され、現在もなお、

新たな伝承を生んでいる。


 冴え冴えとした月光の如き銀髪を持つ『(らい)』、豊穣の大地を思わす碧の瞳を持つ『遙』


 この二つ名である――――




「それに」

 椅子から立ち上がり様、遙はさり気なく持っていた本で、瞭の後頭部をしつけの為に軽く叩く。

「口一杯にお菓子を頬張して喋るものだから、口からお菓子が丸見えだ」

 瞭は遙のそんな攻撃には慣れているのか、小さく舌を出すと、満面の笑顔を見せた。

「ねぇ何か聞こえない?」

 瞭の言葉に反応して、遙がゆっくりと自分の身長よりも大きな一枚窓へと近付いて、いつも通りに窓を、

思い切りよく開け放った。


 まだ少し寒い、けれど春の匂いがする空気が部屋中を駆け巡る。

 この屋敷はとても辺鄙な場所に建って居る為に、周囲に何も遮る物が無く、風通しは勿論、

眺望と採光も抜群だ。



 もう何年前の事だろう。ここへ遙に連れて来られた当初、僕は遙に、神様の住む場所が、

こんなに何も無い丸見えの場所に有って大丈夫なの? と真剣に尋ねた事がある。

 現在(いま)改めて考えると、凄く間抜けな当時の僕のこの質問に、遙は少し困ったように微笑んだ後、

自らの傍に控えていた人を、軽く見遣る。

 先刻からずっと遙と行動を共にしている彼は、僕のこの質問に何故か意味有りげに笑った。


「その理由を教える前に、紹介がまだだったな。瞭、彼……(こう)は随分昔から

この城に暮らしている一人で、他の仲間を(まと)めるリーダーだ」

 皓、と呼ばれたその人は、程好く陽に焼けた肌色に、がっしりとした体格の持ち主だ。


 無造作に刈った短い髪と、意思の強さを滲ませる瞳は同じ漆黒で、落ち着いた風格が

まだ若いであろう彼を、残念ながら実際の年齢よりも上に見せている。

 彼は背中にとても大きな剣を負っていて、それを扱う腕や肩には、鍛錬の賜物だろうか、

相当な筋肉が付いていた。

「宜しくな」と笑顔で差し出した彼の掌は、柔らかい僕の掌と違い、驚くほど硬く、逞しかった。

 

 僕達のそんな様子を、遙は何処か満足げに横目で見遣りながら、(おもむろ)に口を開く。

「皓、説明してやってくれないか?」

(ぼん)、良く聞きな」

 遙に何事かを頷いて、後を引き取った皓は、豪快な身振り手振りを交えて、無知な僕に、

こう教えてくれた。


「一般的にこの屋敷に辿り着く方法としては、先ず『迷いの森』と呼ばれる深く薄暗い原始林を越え、

山頂が見えない程の高い山を四つばかり越え、尚且つ、俺様が仕掛けた罠に(はば)まれた、

広大な荒野を数日間掛けて抜けなければならねえ。

 いいか、そのうえ万が一、奇跡的に敷地内に辿り着けたとしても、屋敷周辺には遙の強力な結界が張って有る。

 だからその存在を認識する事自体が、限りなく不可能に近いと言って構わんだろう」

 今日は遙が直に此処へ連れてきたから、坊には判らなくて当然か。と白い歯を剥き出しにして笑う皓を、

僕は初対面にも係わらず、直ぐに好きになった。



「遙、後は俺が部屋まで案内しよう」

 遙との要件を終えた僕を引き取って、見た目より随分と広い屋敷の中を、皓が大雑把に案内しながら、

割り与えられた僕の部屋となるべき場所へ向う。

「慣れない場所で色々大変だろうが、何、(じき)に慣れる」

 最も、慣れなきゃ出身地へ帰されるだけの話だが、と皓は僕を脅した後、不意に確かめる。

「お前、確か麓の出身だったか?」

「えっと……」


 皓の質問にどう答えるべきか、僕は一瞬悩む。正確には僕は元々この地方の子供では無い。

 辺境に有る、名も無き小さな集落に生まれ、その集落が飢饉(ききん)に陥った際、生贄(いけにえ)として

遙に捧げられた子供だ。

 たまたま近くを通りかかった遙が、僕の存在に気付き、運良く拾ってくれたに過ぎない。


 遙は、自分が懇意にしている麓の村=イシェフ=に、赤ん坊だった僕を連れ帰り、

面倒見の良さでは村一番だと評判の、乳母(僕にとっては母だ)に預けた。

 遙は時々、僕みたいに(にえ)にされた人間を拾ってくるが、流石に赤子は初めてだったらしく、

僕をイシェフまで連れ帰るときは、余りのふにふに感に、緊張で手が震えていたらしい。


 乳母に預ける際、遙は自らの腕の中で、ずっと泣き続けている僕に、大層胸を痛めていたらしく

「この子は私が嫌いなのかもな」と寂しげに呟いたらしい。


 母は溜息を付いて、そんな遙を呆れ顔で見遣った後、泣き止まない赤子に、話しかけた。

「お腹が空いてたら、泣くのは当然だよねぇ」

 丁度下の子の乳断ちを始めようと思っていた処だったから、この子は運が良かったよ。

 と母に告げられて、迂闊(うかつ)にも遙は、その時初めて僕にまだ乳が必要な事に気付いたそうだ。



 こうして何とか無事に麓に預けられた僕は、母から実の子同様に、溢れんばかりの愛情と、

「いずれ遙様にお仕えするんだから、恥ずかしくないように」と基本的な礼儀作法に始まり、

果ては、何故か家事一式までを、その身に叩き込まれた。

 特に料理自慢で知られる母は、調理に関する指導は、尋常じゃない程の熱の入れようで、

僕は幼いながらも、いつしか一通りの献立は作れるようになっていた。


 一方遙は僕を母に預ける時に何か約束事をしたようで、最低でも三日に一度は、用事の有無に関わらず、

麓の僕の所まで顔を見せに遣って来た。

 いつからか記憶は定かでは無いけれど、とても綺麗で、とても優しそうな遙が、僕は大好きで、

遙が訪れる日を毎日、指折り数えて、楽しみにしていた。


 ある日怪我をしたままの遙が立ち寄った際、面会を渋る遙に母は、強引に僕を逢わせた。

「この子は何れ貴方様の(もと)へお仕えする身。有りのまま、隠し事はなさらぬよう」

「……」

 遙は母の言葉に黙って従うと、奥に居た僕を呼び寄せ、いつもの様に片手で抱き上げた。

 遙の悲惨な状態に、怖がりもしない僕を見て、母は「ほら大丈夫でしょう」と笑った。


 ……一瞬、酷く何か言いたげな顔をした遙は、結局何も言えぬまま母に促され、僕を外へと連れ出した。


「遙」

「うーん?」

「痛い?」

 沈んでいく夕日を何をするでもなく、黙って僕を抱き上げたまま見ていた遙に、尋ねた。

「……まぁ、多少はな」

 心配するなと微笑む遙の顔は、夕陽に照らされて、この世の者とは思えないほど綺麗だ。

 何だか、夢を見ているような気分になった僕は、確認する為に、遙の頬にそっと触れる。

「瞭?」

 (いぶか)しげに、少し(すが)められた眼と、眉間に寄った縦皺を見て、僕は慌てて、言葉を繋ぐ。

「遙に痛くない、お呪いしてあげる。良く効くから」

 小さな掌で必死に遙の頬を撫でながら、僕は村に伝わる痛み除けの呪いを繰り返した。

「ふふっ。有難う。……お陰で痛みが薄れたようだよ」

 そう言うと、遙は僕に頬を寄せ、更に深く微笑んだ。

 僕はそんな遙の、零れるような笑顔が見れた事に心から満足し、お返しとばかりに顔中で笑った。

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