2話
「やっと終わった。」
授業が終わり、生徒たちはそれぞれ部活に向かう。しかしか帰宅部である明はさっさと帰り支度をしていた。
「何してるんですか、メイド。」
不意に隣りから声をかけられ、明はビクッとした。それはよみだった。隣りの席とはいえ、休み時間はお互いに友達と過ごしていたので話すのは朝以来だった。しかし、その最初の朝の会話が強烈だったため、明は内心よみとは関わりたくないと思っていた。
「何?••••••西郷さん。」
「あれ、そういえば言ってなかったですね。僕のことはよみでいいです。ところでさっきも言いましたが、何をしてるんです?」
「帰る支度を。」
「何やってるんですか。これから部活ですよ。」
「俺、帰宅部だけど。」
「ですから、あなたは私が作った部活に入って
るんです。」
「はっ!?何でそんなことに。」
「先生から何も聞いてないんですか。まあ、簡潔に言いますと、僕が部活を作りました。僕以外に4人入っています。しかし、5人いないと部活として認められません。先生に相談したところ、ずっと帰宅部で毎日だらだらと過ごしているメイドに白羽の矢がたったというわけですよ。」
「あのやろー、俺が生死をさまよっている間に勝手なことを。」
「先生も色々考えてくれたみたいですよ。メイドが事故のあとクラスになじめるか不安に思ってたみたいでしたし。何より毎日自堕落な生活を送っているメイドが心配みたいでしたし。」
「だからって、俺の許可なく。」
「メイドに拒否権はありません。」
よみはニコッと笑って言った。明はもう朝の一件で逆らえないことが分かったのであきらめた。
「僕たちの部室は部室棟にあります。案内するので行きましょう。」
こうして明はよみに部室棟へ連れられた。
部室棟は昇降口を出て、2、3分歩いた先にある3階建ての古い建物だ。文化系の部活はここに集まっている。
しかし、この学校は北校舎と南校舎に分かれている4階建てで、北校舎に昇降口があり、そして、明とよみのクラスは南校舎の4階にある。さらに、階段から一番遠い。2年生になったら、このクラスにはなりたくないと切実に望むほどである。
この長い距離をよみにおびえている明と意外にもそれほどおしゃべりでないよみは黙って歩いていた。
しかし、沈黙に耐えられなかったのか、明はよみに話しかけた。
「あー、ちょっと聞いていいか?」
「何ですか?」
「俺が入ってることになっている部活って何なんだ?」
「そうですね。まだ、話してませんでした。僕たちの所属している部活はLive研究部といいます。簡単に説明しますと、生とは何か?死とは何か?を研究する部活ですね。」
「おいおい、この俺にそんな難しいことを考えろと言うのか?」
「大丈夫じゃないですか。だってあなたは実際に体験したのでしょう?死を。」
明はその言葉であのときのことを思い出す。目に入ってきた車、飛ばされたときの痛み。そして、死を実感した気持ち。あのときはもうあきらめていたが、今になって恐怖を感じる。鳥肌がたった。
「すいません。嫌なことを思いださせて。」
明の様子を見て、申し訳なさせそうに言った。
「別にいいよ。」
素直なところもあるんだな。そう思いながら、歩き出した。
再び沈黙が訪れる。次に破ったのはよみだった。
「たびたびすいません。」
「何だ?」
「1ヶ月の間どうしてたんですか?助かったはずなのに何で学校来てなかったんですか?」
「そっか、転校生だから知らないのか。俺、意識不明の重体だった。ずっと、目が覚めなかったんだよな。」
よみは驚いて、つぶやいた。
「じゃあ、失敗したの?」
明はそれに気付かず続ける。
「すごい衝撃だったのに、目立った外傷はなかったから結局大したことなかったんだろうな。それなのに、なかなか起きないから医者も不思議がってたよ。」
その言葉を聞いて、よみはブツブツ言っている。
「失敗はしてなかったんだ。じゃあ、力による副作用?こんなこと初めてしたからな。」
「おーい、もう着くぞ。」
2人は部室棟の前にいた。
「あー、すいません。僕たちの部室はここの4階です。」
「4階!?」
また歩くのかと憂鬱になっていたが、ふと気づいた。
「ここって3階建てだったよな。」
顔を上げて見てみると、
「高くなってる。」
明の記憶上、3月まで3階建てでまだ空に余裕があるように見えた部室棟は、一階分高くなっていた。近くにあったビルも見えなくなっている。
「さあ、行きましょうか。僕たちの部室に。」
よみのあとについて、明はこの不思議な建物に入っていった。