1話
5月。新しいクラスにも慣れ、仲良い友達もそこそこできた頃。
ある日の朝、ドアを開けて入ってきたのは一部の人間には知らない男子。
「明!」
彼の下に一人の男子が駆け寄ってくる。
「お前、もう大丈夫なのか?」
「ああ。ひさしぶりだな。四条。」
そう答えた彼は土屋明。今から約1ヶ月前、交通事故に遭い、昏睡状態が続いていたが、最近目を覚まし、今日学校に復帰することになった。
「これからまたよろしくな。」
「もちろんだ。」
彼らの友人達も集まり、しゃべりこんだ。このクラスの女子はレベルが高いとか、学年が上がって勉強が難しくなって追いつかないとか。明も自分のいなかった1ヶ月のことが聞けて楽しかった。
しばらくして予鈴が鳴り、席に戻り始めたころ明は聞いた。
「そういや、俺の席はどこなんだ?」
「向こうだよ。」
明は四条が指差した方を見た。一番後ろの窓から二番目の席。そしてその隣り、窓側の生徒を見ると、
一瞬、何の音も聞こえなくなった。
ツインテールの美しい漆黒の髪、瞳も吸い込まれそうなきれいな黒、肌も真っ白だ。
そうそこにいたのは美少女だった。彼女は頬杖をつき、ぼんやりと前を見ていた。
明はその美しさにぼうっとしていた。
「お前もか。」
四条の声でハッと気づいた。
「あの子は?」
「彼女は西郷よみ。お前が事故った翌日に転校してきたんだよ。今の学校一の美少女。ったくいいよな。あいつと席隣りで。」
明は席へ向かおうとした。
「まあ、増日えまもあんなことになったからな。」
「何だよ、それ?」
旧学校一の美少女、そして明もあこがれていた(今は西郷よみに変わりつつあるが)増日えまの名前を聞いて驚いた。
「あれ、知らない?そういや、明の事故の後だったな。実はな•••」
ふと、よみが明たちの方を見た。そして、四条の目を強く見つめた。
四条はぼうっとなり、そして、
「まあ、いいや。席戻ろうっと。」
と、去ってしまった。
「何だよ、あいつ?」
明は不思議に思いながらも席に着いた。
席には着いたものの、明は何を話せばいいか分からず、緊張していた。先手を打ったのはよみだった。
「あなたは土屋明君ですね。僕の名前は西郷よみと言います。これからよろしくお願いします。」
よみは握手をしようと手を差し出した。
「あ、よ、よろしく。」
明はまだ緊張している。
「さっそくですが、あなたのあだ名はメイドです。」
「は、はい。って、はぁ?何だよ、それ?」
「由来ですか?まず、あなたの名前。明はメイと読み、土屋の土はドと読みます。次にあなたは事故に遭って、戻ってきました。つまり冥土から戻ってきたということです。これほどぴったりなあだ名、他にあると思いますか?」
「いや、俺が気に入らないんだが。」
「あなたに拒否権はありません。」
このよみという少女、自分を僕と言い、丁寧語で話すというなかなかかわいいところがあるが、強引なようだ。
「それに•••」
よみは明の耳元でささやいた。
「あなたはこれから僕のメイドになるんですから。」
明はブルッと震えた。よみはフフっと笑っている。
「少しは緊張ほぐしてもらえました?」
明はこれがよみの気遣いで冗談だと分かり、安堵のため息をついた。
「改めて、よろしくお願いします。メイド。」
明はこれは冗談じゃなかったのかと思い、顔をひきつらせた。