第3話
家から学校までといっても、大した距離じゃない。
ゆっくり歩いても20分とかからないし、母さんの転移魔法なら… げふんげふん、ごめんなさい、忘れてください。
転移先の座標を『うっかり』間違えて、鍵の掛かった体育倉庫に転送されたのは先週の話です。
その日も今日と同じ金曜日だったこともあって、週明けに発見されるまで、倉庫に閉じ込められたままでした。食べ物と水だけは転送してくれたけど。
そういうわけで。
学校を囲んでいる城壁と呼んでも差し支えない壁を回り込んで、正門を抜けると広い校庭の先に校舎が見える。
正門のあたりには、小さいながらも本格的なアルビオン風の庭園があって、そこを抜けると、運動場があるんだけど、そこがまた広いんだよね……
白亜の校舎という二つ名にふさわしい純白の校舎は、中央の時計塔を中心に、鳥が翼を広げるような配置になっている。
どれだけ広いかというと、普通に歩いても10分近くかかるんだよね……
庭園の中ほどで待ちかまえていたのは一人の男子生徒だった。
「天城さん…… オレと付き合ってください!」
「僕は男だけど」
「嘘だろう! こんなに可愛いのに」
……なんかなあ、またなのか、って感じだ。
男子が男子に告白って、何を考えてるんだろう。
「可愛いって言うな!」
「うむ、自分が美少女だという自覚が無いのか」
……人の話を聞いてくれ。
僕はがっくりと肩を落とすと、唸るように声をひねり出した。
「どうやったら学生服とセーラー服を見間違えることが出来るんだよ」
「校則には学生服かセーラー服着用としか規定はないからねぇ。君が学生服を着ていても問題はないはずだ。君の場合はセーラー服の方が似合うような……」
告白してきた勘違い男は理解していないようだった。
「だから! 僕は男だっ!」
「そう言ってるだけで、本当に女かも知れないだろうが!!!」
「しつこい男は嫌われるわよ、石橋?」
あ、そうだ、思い出した。
石橋・ローリンだ。生徒会副会長の… ってちょっと待って?
背後から聞こえる鈴を転がすような、そして、不機嫌そうな声。
それを聞いた僕は、全身が石化したかのように硬直する。
いや、コカトリスに睨まれても、これほどきれいに固まりはしないと思う。
背中に嫌な汗が流れてくる。
彼女がこんな口調で話すときは充分に危険なのだという事を、この勘違い男は、判らないんだろうか……
副会長なら佐奈とは生徒会でいつも一緒のはずでしょ?
転移魔法も魔力の大量消費という意味ではすごいかも。
でも、まあ、天城くんのお母様ですから…… オッケーという事で。
そのうちにこの辺の設定を纏めてみるつもりです。