エピローグ
あの日から一週間が過ぎました。
今日は退院祝いという事で、ちょっとしたお祝いをしてくれるそうです。
退院手続きが終わると、そのままエスターが転移魔法で会場にGO!
というわけで、未だに寝間着姿という間抜けな格好です。
「天城くん、ちょっといい?」
「はい、なんでしょう」
「今日のために服を仕立ててみたんだけど、袖を通してくれる?」
大地のお母さんだ。右手に持ったトートバッグに入っているようだ…… 何か見憶えのあるような気もするけど。特にちょっとだけイタい柄とか、色合いとか。
バッグの口からは、紫みを帯びた深い青色の生地が見え隠れしている。
「退院のお祝いに、と思ってちょうだい」
「……有難うございます」
「はい、じゃあこれ」
「…………なな、な…… なんで!?」
トートバッグの中にあった衣服――ワンピースとボレロあ~んど、その他諸々――を見た僕は、絶句するしかなかった。
「おばさん、ちょっと頑張っちゃったわよぉ♪」
「……頑張る方向に問題があるような気がするんですけど?」
「だあってぇ、せっかくあの時フェルナーダちゃんが着てたのを再現したのにぃ」
「お母さんも見たいな~ 息子の、は・れ・す・が・た。それとも、こっちを着る?」
母さんが持ってきたのは、桜色のふりふり。そんなの、どこのお姫様が着るんですか。
「……どっちもヤです。もっとまともな服はないの?」
「充分にまともよ」
この際、学生服でもなんでもいいから!
「ここは覚悟をきめちゃいましょうね。身替えを手伝ってあげるから♪」
「堪忍してください!」
振り返り、全力の猛烈ダッシュ「あら、主役がどこに行くの?」…失敗です。
母さんとエスターに、あっさりと捕獲されてしまいました。
「はい。じゃあこれをここにつけて、これを穿かせて。……あら、生えてないのね♪」
「やだあああああ!」
抵抗むなしく、すっぽんぽんに剥かれた僕は、次々に衣装を身に着けさせられて……
はあ、運命の神様がいたら、呪ってやりたいものです。
さらにメイクが終わり、ぐったりと椅子に沈み込んでいる僕の前に、光の輪が浮かび上がりました。
――ふむ、有機的な身体を持つという事はこういう事か。
遠い祖先の姿を模倣するのも、悪くは無いかも知れない。
「え?」
「どうだろう、似合うかな?」
聞いたことのない声に振り返ると、蒼銀の髪を長く伸ばした美しい幼女がいた。
華麗にターンをして群青色のスカートと銀の髪をふわりと翻す。
僕が着ているのと同じデザインの服…… だけど……
この子は誰だろう?
深みがかったサファイア色の髪と紫色の瞳……
まさか、ひょっとして……
「早くしないと、みんな待ちくたびれてるよ。オ・ニ・イ・チ・ャ・ン」
どこかに行ってしまった、僕の平穏な生活。
できれば、すぐにでも帰ってきてください……
このお話は、これで完結です。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。