第36話
丘が消え、すり鉢状になった所に、正八面体が浮かんでいた……
その中心には紫色に光る何かが、ゆっくりと脈打つように輝きを変えている。
言葉とは裏腹に、この状況を楽しんでいるようだ。
「そうね。この場合は初めまして、というべきね。宇宙からの訪問者さん」
「こいつはっ! ……ハイウインド様!」
ノゾミは私をかばうように前に出ると、杖を構えた。その先には、すでに物騒な光が宿っている。
「落ち着いて。あれは敵ではないわ」
「でもっ! 夫は、息子はあれに…」
「いいから! とりあえず杖をおろしなさい」
私はノゾミの言葉を遮ると、それに話を続けるように促した。
――あの幼生体には悪い事をしたと思っている。
償いのつもりで肉体を複製して、精神や記憶などの一切の情報を『移植』したのだ。
ささいな事で生命を失う事が分かったから、ある程度の改良をした上で、だ。
あの肉体を諸君の技術手段で破壊することは、極めて困難だろう…………
「移植については問題なさそうだけど… 残ったあの身体は?」
――修復作業中だ。外観の一部は何とかなったが、内部は完全に破壊されている……
これはに時間がかかるだろう。今の私から見れば異質な生命体の修復だから。
「修復が終わったら、情報を移植しなおすのね?」
――そのとおり。
「どんな高度な技術も、所詮は自然を模倣するご都合主義に過ぎないわよ? 身体の修復は、あなた達にとっては太古の技術…… ロスト寸前のテクノロジーね。ならば予測不可能な不具合が出ない確率は、ゼロではない筈だけど?」
――指摘の通りだ…… 何か妙案があるようだが、私は何をすればいいのかな?
「あの子の近くにいる事が出来れば、何かと対処しやすいでしょ? だから……」
――なるほど。実に興味深い体験が出来そうだ。そういう事であれば……
「あとは状況設定ね。ノゾミ、あなたにも協力してもらうけど……」
しばらく考え込んでいたが、おもむろに話し始めた。
……こうして長い3日間は、ようやく終わりを告げた。
魔界からの邪悪なる訪問者は、異世界からの援軍よって撃退する事ができた。
魔界からの尖兵により、拉致されていた少年は無事に解放された。
幸いにも少年には怪我はなく、病院で一週間程度の静養をすれば……
「……と、いう事のはどうかしらね?」
「なんか無茶苦茶なお話ですね」
「皆が期待しているような、荒唐無稽な物語を提供するだけの事でしょ。それともノゾミには他にいい案を?」
ノゾミはしばらく天を仰いでいたが、小さくため息をついた。
「……で、誰を目撃者に仕立て上げるつもりですか?」
ホントに、誰を目撃者にしましょうね。
王宮で何があったのかについては、スキップです。
書くとしたら、外伝扱いでしょうか。