第35話
シオカで瑞希ちゃんの保護に失敗した時は、目の前が真っ暗になったけど、あの子もなかなか面白いトリックを使ってくれたものねぇ。
おかげで、騎士団司令部は半日以上も機能停止よ?
それなりに考える時間が出来たし、彼と合流できたから、良しとするけれど。
あ、王宮関係に結果を話しておかなきゃ駄目ね。かなりの戦力を動かしたし、騎士団長が病院送りになるような事件だったから。
あ~あ。何かいい方法、ないかしらね。
他にも後片付けがいくつか残っているけど…
ええと… まあいいわ。
すぐに思い出せないようなものは後回しでも問題ないでしょうから。
「中尉?」
「はっ、御前に」
一人の騎士を呼ぶと、王宮が護衛にと付けてくれた部隊を撤収させるように告げた。
「どうやら問題は解決したようです。撤収しましょう…… この子は早く病院に」
「承知いたしました」
看護兵が瑞希ちゃん担架に乗せている。
このまま中央病院の個室に直行してもらいましょう。
検査やら何かで、一週間は出てくる事が出来ないと思うけど、それは仕方がないわね。
「あの、ハイウインド様?」
ノゾミは何かを言いたそうに、こちらを見ている。
彼女には、ある程度納得できる説明が必要でしょうね。夫は病院送りにされたし、その犯人は逃亡したまま行方不明。死んだと思った一人息子は生きているし。
ある程度事情を説明しなければならないわね。
今後の事もあるし……
「どうやら新しい術式の転移魔法に巻き込まれたみたいね。あそこにあるのは……」
木のうろに視線を向けると、話を続けることにした。
「一種の虚像。なぜこうなったのかは詳しく調べるけど、しばらくしたら消えるわよ」
「そう、なのですか」
「転移魔法は時間と空間に干渉する魔法だから、こういう可能性は昔から予想されていたけど、ね。私も見るのは初めてよ」
あたりを見回すと、残っているのは私のメイドたちだけ。これなら大丈夫ね。
あの娘たちに任せておけば、この場を完全に封鎖できるから。
それを確認した私は……
「そして……」
私はある場所に足を運んだ。
と、言ってもさっきの場所から10歩も歩かない距離だけど。
「今回の騒動は、あなたが引き起こしたのよねぇ……」
視線の先にあるのは、小高い塚のあった所。
今はその形を大きく変えてしまっているけど。
――やはり、この場合は『初めまして』というべきなのだろうね。
メイドさん達は、当然のことながら生身のそれじゃありません。
前に出てきたのとは、別のタイプですが…… どーでもいいですよね。