第34話
ふと気が付いたら、僕は誰かの身体を引きずっている。
学生服を着たその身体は、結構小さい。僕とそんなに変わらないという事は、大地か2組の田野君か… ミト君かな?
大地は図書委員の当番だから、違うと思う。
それよりも、この森には僕しかいないのは分かってる。
それ以前にこんな森の奥に足を踏み入れるなんて、誰も思いつかないから。
……じゃあ、コレは誰だろう。
どうやら、行先は背後にあるクスの木のようだけど。
その木の内部がウロになっていて、秘密基地になっているのだ。
……駄目だ。
もう体力の限界。身体に力が入らない……
さっき、ものすごい勢いで、どこかにぶつかったせいかな。
最後の力を振り絞って、大きな木の根元にたどり着いた。
木のウロに、彼の身体を押し込んだ。
「……もう駄目。体力の限k…… !!!?」
仰向けになった彼の顔は……
僕…… だった。
あれが僕だったら、ここニイル僕ハ……
………………
………
…
「…くん! みずきっ! 返事をして!」
ゆっくりと視界が開けた。
朦朧とした俺の脳髄はまだ活動することを拒んでいるけど、そんな呑気な事を言っていられる状況ではないはずだ。
急いでこの場を離れないと…… 動け、僕の身体……
「もういい! もういいのよ……」
エスターが僕の体を抱きしめていた。
「あなたは天城・瑞希、そうなのね……」
いや、僕は僕だけど、僕じゃない……
だって、この身体は母さんが生んでくれた身体じゃないもの。
僕の本当の身体は……
…………そこで眠ってる。
身体の中はぐちゃぐちゃになっていて、繭から出たら数分で死んでしまうけど。
それでも、本当の天城・瑞希は……
あそこで寝ているんだから。
「そんな事はどうでもいいの! あなたは瑞希ちゃん… なのでしょう?」
「僕も、天城・瑞希…… だけど、身体は作り物…」
「それでもいい! あなたが生きていてくれれば、それでいいのよ……」
ぼんやりとした視界にあるのは、エスターの泣き顔だった。
そして……
「かあ…さん……」
再び聴覚が歪み、世界が色を失っていった。
人間の意識や記憶といった「情報」を完全にコピーすることは、理論上は可能とされているそうです。
じゃあ、どうやって?
そこまで研究(?)は進んでいないそうです。