第33話
僕が鎮守の森に行くのは、そこに独特の雰囲気があるから。
しん、と静まった雰囲気が好きだった。
おだやかな陽射し。時々、風にざわりと音を立てて揺れる枝。
なによりも、そこにある古木のうろが、秘密の隠れ家にぴったりの大きさだったという事もある。
学校にいても、人の出入りのほとんどない図書館で静かにしていても、どこからともなく現れる上級生にぎゅーっとされるし。
僕は一人っ子だから、夕方過ぎに父さんと母さんが帰ってくるまでは、家に帰っても一人きり…… は、ないか。
毎日のように佐奈が世話を焼きに来るから。
それが嫌だとは言わないけれど、時々なんとなく… ね。
とにかく落ち着くというか、一人になれる空間というか。
ここは僕だけの世界だ。
その日も、僕は森の中を散策中というか、何をするでもなくぼ~っとしていた。
ただ、いつもと違う事といえば……
奇妙な音が聞こえる。
「なんだろう?」
丘というか、塚というか。
それが、奇妙な音を立てて、ぶぶぶぶぶ…… という感じで震え始めて。
あわてて塚から離れようとした時に……
塚が地面に吸い込まれるように消滅するさまを…… 見た。
そして、それからは一瞬の出来事だった。
まず一回目は正面の塚から生まれた衝撃波。
鈍い音と一緒に、体がバラバラになるかのような衝撃。
音なんか聞こえなかった。
気が付いたら飛んでいたんだけど、周りの風景が急激にスローに見えていた……
塚が半分くらい無くなって、巨大なすり鉢状のクレーターになっている。
その上に、サファイアのように青く透き通った、一辺が2メルトルほどの正八面体が浮いていて……
その中心には紫色に光る何かが、ゆっくりと脈打つように輝きを変えながら……
そこまで見た時に、背中から何かに叩き付けられたような、二回目の衝撃。
そして、身体の中から生まれたいやな音。
ぐしゃっ! というか、ぼぎゃっ! というか、そんな感じの音……
正直、痛いとか苦しいとかはなかった。
変な音がして、気が付いたら地面の上に寝てた。
ああ、空が明るいなあ… なんて思っていたら、なんか眠たくなってきて……
変な声が聞こえてきて……
――まさかこんな事になるとは……
それにしても、この惑星の生命体はなんという短命…… 償いは……
悔恨と心配が入り混じったような、あらゆる年齢の声が重なりあったような声だった。
それが僕に話しかけてきた。
――こちらの手違いで、あなたの身体を破壊してしまったようだ。
破壊された身体を元通りにする時間を……
その間は、代わりの身体を用意する。物理的に破壊出来ない身体……
たしか、そんなような事を言っていたような気がする。
……やっちゃった。
このあたりまでなら、大丈夫ですよね?
……ふう。