第32話
よく考えれば、こいつちょっと怖いな。
自分の事を進化した存在って言ってるけど、どこかにトリックが仕掛けてあるに違いない。声のほうも同じ原理かな。
ひょっとして、エスターが考えた大掛かりなイタズラ…… じゃないな。いくらなんでも彼女は、そこまで悪乗り出来るような人じゃない。
じゃ、じゃあこれは本物?
こういう相手に何をどうしろってあれれ思考が読まれてるのかな?
――そりゃあ、君たちの種族よりも少しだけ進化した存在だからね。
わああアアァァァぁ ガチで読まれてるとは思いもしなかったよぅ!!
――いい感じで混乱していて面白いが、とりあえず私の話を聞け。
まずは深呼吸だ。
スーハー、すーは……
………
……
…
――落ち着いたかね?
ええと、はい… じゃあ、あなたは誰ですか?
――君たちよりも少しだけ早く進化を始めた存在だ。
ほんの30万年くらいだな。宇宙的な規模では、同時と言っても構わないだろう。
まあ、仲良くしようではないか。
好意的な説明をありがとうございます。
で? いきなり頭の中に話しかけるのはいいけど、普通はパニくりますよ?
――キミという人物はそれだけの完成度が高いという事だろう。
いやいや、まだ幼生体だというのに大したものだ。
将来、キミは大物になるだけの要素を持っているぞ。
誉めてもらったんですかね。
――ふ、ははははは。面白い。実にキミは興味深い人物だ。いや実に興味深い……
色々な出来事が重なってしまったが、身体の複製には完全に成功したようだ……
光るリングは、笑い声の尾を引きながら消えていった。
そして……
世界が元の姿を取り戻した。
「夢じゃ… なかったんだ……」
あの日、何があったのか、ようやく思い出した。
母さんが僕の事をやさしく抱きしめてくれて。
エスターが静かに話しかけてきた。
「……話して、くれるわね? あの時に何があったのか」
エスターは静かに話しかけてくれた。光の環の正体が何者なのか、なぜここにいるのか… そのあたりの事情は大体わかっている、と。
そのうえで、僕の身に何が起こったのか。
それを、話して頂戴、と。
いきなり頭の中に話しかけられたら……
やっぱりパニクりますよね。