第1話
昨夜は妙な夢を見たような……
とにかくよく眠れなかったのは確かです。
ふと布団を眺めると、自分が寝ていたすぐ隣の部分がこんもりと盛り上がっている。
そう、いつの間にか僕のベットに侵入して眠りこける女の子の存在も、いつもの通り。
彼女の家と隣同士というのは、王道的なお約束だと思う。それはいいんだけど……
「まったく、いつもいつも… どうやって入ってくるんだろう……」
部屋のドアや窓には鍵はかけてあるし、家の周りに展開している防御結界は、侵入者を無条件で近所の公園に転送するようになっている。
加えて言えば、この結界は母さんの趣味でマニアックに改造された特別製で、その完成度は王国騎士団の特殊部隊のお墨付きだ。
母さんから、寝る前になって部屋の中にも展開すると言われたのには驚いたけど。
一番の欠点は、結界を解除しない限り、外には出られないという事かな。
でも、昨日って、何かあったかなあ……
昨日の午後あたりからの記憶がごっそりと抜け落ちてる。
昨日は、きのうは… キノウは…… キノウはナニガアッタ!?
胃の上のあたりに、冷たい何かがあるような嫌な気分… それよりも思い出そうとすると頭がきりきりする。
「とりあえず起きるか」
枕元の目覚まし時計のスイッチを切ると、机の上に置いたる魔方陣に目を向けた。
上に置いてある魔晶石には異常はないようだ。
「ふぅ……」
上半身だけ起こした状態の僕の腰に、両腕でしがみついたような恰好で、彼女はすやすやと眠っている。
そっと布団をかけなおすと じ~っと寝顔を眺めてみる。
よしっ! 起きる気配はないな。
「んんっ……」
甘い声と共に、腰に回った手に力が入った。
や、やばいぞっ!
無意識のうちに、右手は枕を探して… よし、あった。
「お… おはよう」
「ふぁ…ん…う……」
くしくしと眼を擦って挨拶を返す。まだ寝惚けてる。よし、今のうちに脱しゅt……
「お は よ う… み ん きぃ」
鈴を転がすような声が聞こえ、鼻先と鼻先が触れ合う距離まで迫った顔。
くそっ、右手首を握られて 僕は仰向けに押し倒されて。
―むちゅっ!―
「んんんっ」
覆い被さった佐奈は、枕を持った右手はおろか、身体をガッチリとホールドしていて動きが取れません。
体育の授業で、押さえ込みに対する返し技は習っているのですが……
「えへへ~ ご馳走様でした」