第21話
観測結果を一枚の紙にプロットしていてやヴぁい事に気が付いちゃった。
天球の回転と同じ動きをしていない星って、観測ミスだよね。
エスターはこういう事には、結構細かいから。
「あの赤い星ですけど、観測をミスったみたい」
夜空の星は、北の空の一点を中心にして円を描くように動いているんだけど、あの赤い星は、途中からSという文字をなぞるような動き方をしている。
その近くには赤い星なんかない。
それに目で見てわかる星を間違えるとも思えないんだけど… やっちゃったかな?
「それは間違ってないわよぉ。火星の逆行現象と言われているわね。これは地動説が正しくなければ説明できない動きなのよ~」
「地動説って、異端思想…… でしょ? 知りませんよ? 異端認定されたって」
「コペポーダは何も言わないと思うわよ」
「もちろん大司教様の事ですよね?」
コペポーダ様は、空気のようなお方です。
というか、ドワーフは一般的にモノ作りを得意とする種族ですが、何故か賢者で、国教会の大司祭をしているという、何か不思議な人です。
宗教というものについては鷹揚なジャポネです。
そういう意味では、何でもアリと言えばアリですから。
玉ねぎみたいな形の金色の寺院とか、オシャカサマとか、アマテラスサマとか。
他にもたくさんの神様がいて…… そういえば公開処刑された後で神様になったなんてのもあったかな。
それらは、それなりに仲良くやっているようです。
でも、宗教が違うと、妙な対立もあるわけで。
国教会というのは、そういう宗派の間を取り持っているというか……
めんどくさい。全ての宗派の取りまとめ役みたいな事をしている、という事で。
それだけに、妙なところで重みのある発言をする人です。
「それにね、国教会というのは人間の宗教の総元締めでしょ?」
「そんなもの、みたいですね?」
「私はハイエルフだもん。人間のルールに縛られる必要はないじゃない」
「でも…… 神様って……」
「私達だって、崇拝しているものはあるけど、それを人間に押し付けたことはないでしょ?」
「そう言えば聞いたことがないですよね、エスターが信じてる神様って」
「名前が違うだけかもね~ 創世のお話は結構あるでしょう?」
「たしかに、よく聞きますね」
「でしょ?」
神様というのは、たくさん居るようですが、実はたったひとつの存在かも。
例えは悪いけど缶詰の缶だって、見る角度によっては丸かったり四角だったり。
でも、缶は缶だし。神様も一緒で、僕たちはほんのわずかな部分を見ているだけじゃないかなって、思います。
いくらなんでも缶詰の缶と一緒じゃ神様に失礼かな。
それでも言いたい事は分かってくれると思う。
……神はフーグ・テラのはるか上に座して地に住む者を見られた。神は天を幕のようにひろげ、これを住むべき天幕のように張り、日と月のしもべとして月の一部を砕くと幕の上に振りまき、これを星と名付けた…………
これは誰もが知っている神話の、一節。
そして、それは、平穏の終わり。
宗教だけじゃないけど、自分たちと考え方が違うからって、力づくでどうのこうのというのは、やっぱり大人の事情なんでしょうね。
そうそう。
エスターの信じている(?)神様は、ヴォイグェルという双子の神様だったりします。