第18話
エスターが大輪の薔薇が咲き誇ったような笑顔を浮かべる時には、ロクなことがありません。というより、確実に被害をこうむります。
一方、大地はというと……
「ああ、ハイウインド様の笑顔……」
確実に魂が抜けかかってるな、うん。目が逝っちゃってます。
で、僕はというと、いつの間にか背中からムギューっと抱き締められています。
でも、僕の首に絡めた腕は何を意味してるんでしょうか?
「とりあえずクバツまでは転移魔法で帰りましょうね」
「え? で、でも…… 王宮の用事って、国王陛下の……」
「とりあえず、状況的には様子見だし、私も装備を取りにクバツに帰る途中なの」
校庭の穴は埋め戻しの手配が済んだから、避難命令の根拠にならなくなったし、鎮守の森については…… たぶん機密事項なんでしょう。
「あなたも家に帰っても一人じゃ寂しいでしょう?」
「別にそんなことはないです。レポート提出も待っているし……」
「レポート?」
「天命の飢饉について、次の授業までに提出する事になっています」
よし、大地。ナイスサポートだ!
「そ、そうなの。マスィード先生、結構厳しくて……」
「……でも、ハイウインド様のお召しは全てにおいて優先だ、って思います」
「おっ、おい……」
「瑞希ぃ? ハイウインド様にご足労いただいているのに、まさか断らないよね?」
だっ、だいちぃ~
親友のお前だけは分かってくれると思ってたのに。
にっこり笑いながら近づくなあ!
「決まりね、一緒にに来なさい」
「ゑっ?」
「今夜は快晴だそうよ? もちろん明日の晩も。好きなだけ夜更かし出来るわよぉ?」
「でっ、でもぉ……」
「来るわよね」
さりげなく腕に力を入れないで……
「ぐえっ!」
首に回った腕えええ! 絞まるっ、もろ気管に入ってますっ!
……タ・ス・ケ・テ……
おい大地、そこで「死んでもいいからハイウインド様のお役に立ってこい」って、さわやかな笑顔で親指立てるなぁ!
「そうそう、ハヤミ君といったかしら?」
「はっ、はいっ! 速水大地ですっ」
「この場であった事は内緒にしておいて頂戴?」
「はっ、はい! もちろんでひゅ」
うけけ。大地のやつものすごく緊張してる。いわゆる直立不動というやつ、だ。
「お願いね?」
足元には、いつの間にか魔方陣が淡い光を放っています。
そういえばエスターが呪文を唱えた事って、ないなぁ。えいっ♪ って感じで魔法を使ってる。ような気がする。
転移魔法って、仕える人があんまりいない上位魔法なんですけどね。
「じゃあ、瑞希ちゃん、行きましょうか」
みょ~ん♪
魔法の分類って、結構難しいです。