第17話
エスターは広域魔法で昨日の一件を『なかったこと』にしてくれました。情報攪乱というか、その手の魔法で、ここ数日の記憶が曖昧になってしまうものらしいです。
ある意味では運がいいというべきかな。
「昨日はびっくりしたわよぉ~ 王宮で朝議を始めようとした矢先に、戦争でも始まりそうな魔力反応だもの」
「王宮にいたの?」
「アルマが至急の用件だって、早馬を寄越したのよ」
「国家の一大事って感じがするけど」
「鎮守の森から奇妙な魔力波動が感知されて、結界が張り巡らされただけなのにね」
「じゃあ、父さんと母さんが帰ってこないのもそのせい、ですか?」
「あの二人は別の用事があるらしいわよ」
ええと… 聞き飛ばしていましたけど、アルマというのは国王陛下の事ですよね。
正式にはアルマレーロ・ヴォウ・トゥティア・オルス・ドゥーラという長ったらしい名前のなので、親しみを込めてトゥティアの殿様と呼んでいますけど。
それでも、い、いくらなんでも国王陛下を呼び捨てというのは……
「たしかに国のトップだけど、私からみれば、今でもかわいいアル坊やなのよね~」
国王陛下って、そんなもんなんですかね。見かけこそ平凡ですけど。たしかに背広着てそこらを歩いていれば、ただの50過ぎのおっちゃんにしか見えませんけどね。
でもこの国で一番偉い人で……
「あの子ったらね……」
彼女は、出るところは出て、締まるところはとことん締まっている綺麗なお姉さんですが、実のところ、とんでもない年寄りです。
それなのに、『老化が止まっているのでは?』と言われるほどに若い容姿と美貌の持ち主だったりします。
楽しそうに国王陛下の幼少時代を語るエスターですけど。あの時代をリアルで経験しているからこその、楽しい思い出話なんでしょうね。
こうやって、いくつもの時代を過ごしてきたのでしょう。
そういえば何年か前に赤色戦争で活躍した事があると言っていましたが、それが新王国時代の初めごろの出来事だと知ったのは、つい最近の出来事です。
これはこの前の小テストで出たし、ちゃんと満点取りましたから間違いないです。
それにしても、この前会ったエルフのお爺さんは820歳だったけど、外見も普通にお爺ちゃんだった。赤色戦争はお爺さんが生まれる前の出来事だよね……
エルフとハイエルフの違いはあるにしても、ここまで極端だと反則じゃないかって思うことがあります。
で、まあ結果から言えば、赤色戦争は……
「……209年に赤色帝国がコレア半島に侵略の手を伸ばしたのが始まりね」
「こっ、心を読むのは反則だと思います」
「だって言葉に出てたもの」
「えっ? どのあたりかれでしょうk……」
「うふふふ……」
や、やばいかな? エスター様、笑顔が素敵です……
鶴は千年… と言いますが、ハイエルフの寿命ってどのくらい長いものなんでしょうね。
エルフの寿命は千年、という話を聞いたことはありますけど、ね。