第15話
先生はびょん、っと立ち上がると、にっこりと笑った。
「そうだ、明日はせっかくの日曜日だし、どこかに行かない?」
日曜日は休みって言っても、それなりにやる事があるんです。今日だって歴史の宿題とか商店街に新しくできたゲーセン行くとか、佐奈の買い物に付き合うとか。
で、明日は明日でクバツに行く用事があるし。
ほら、暇じゃない。だから……
「……休みじゃないです」
「僕もマスィード先生の宿題が終わってないです」
「なあんだ、その位なら大丈夫よぉ。何とかなるって」
そんな安請け合いされたって……
マルシア先生はルージュで縁取られた口元を吊り上げて、にっこりと微笑んでくださいました。
「天命の飢饉なら、私のノートを見せてあげる。言っておくけど丸写しだけは駄目だからね。あの先生の授業は私の時から変わってないから、それで何とかなるでしょ。
天城くんはハイウインド様のところでしょ?」
「そうですけど……」
「クバツのお屋敷になんて、国王陛下だって年に何度も招かれないのに……」
遠いところを見るような表情でぼやいた。
「そうなんですか?」
「そうなの! これはとても名誉なことなのよ」
「僕の場合、小さい時からクバツに行くと、必ず寄ってたから、いまいちピンと来ないんですけど…… というか、寄らないと後でいろいろ言われるし」
「それだけ寵愛を受けているという事でしょ」
「寵愛というより溺愛って感じで嫌なんですけど?」
美味しいものが食べられるとか、天体観測で夜遅くまで起きていられるとかはいいけれど、着せ替え人形にされるんだよね。半ズボンとかならいいけど、この前のようなふりふりのいっぱいついた服は… 大地なら喜んで着そうだけど。
男子には男子なりの服装というものがあると思うんだ……
そんな事を考えていたら、奇妙な視線に気が付いた。
というか、僕を見つめる二人の背後には不気味なオーラが渦巻いている。
「そんな事を言ってると…… いいの?」
先生の視線の先を追っていくと… うっ、大地の目が怖い。
重苦しい空気というか、二人の出すオーラに押しつぶされそうだ。
「……よっ、よく考えてみれば、これはこれで幸せなのかも」
「ようやく分かってきたようね」
「三国一の果報者って、僕のためにあるような言葉ですね」
「そういう事よ」
そう答えたとたんに、空気が軽くなった。
……ふう、長いものには巻かれろ、ってこういう時に使うんでしょうね。
でも、それと外国語は別だと思うんですが……
「それは置いとくとして、外国語が出来なくても死ぬわけじゃないのに……」
どうして外国語なんか勉強するんでしょうね。普通に暮らしている分には使う必要はほとんどありません。そういう時のために翻訳の魔法というものがあるのに。
マルシア先生は、がっくりと肩を落とすと盛大にため息をついた。
「個人的にはどうでも構わないけど、周りの人はどう思うかしらネ。ハイウインド様のお気に入りがお馬鹿さんでハ、教師の立場が無いのヨ」
ため息をつきたくなるのは僕のほうです。
「とにかく、ペースを上げるわよ。はい、じゃ次は教科書8ページを開けて!」
補習授業は昼までみっちりと続きました。
もう、脳みそが融けそうです。
英語なんかキライダ……
ホシュウジュギョウナンカ、モットキライダ……
「やるけど参加する?」って聞かれて、「はい!」って返事したのは私ですけどね。なんか納得のいかないGWでした。