第12話
ズボンは簡単に返してもらう事が出来た。
その方法は…… 言いたくない。
「二人とも災難だったニャ。匂いはオスだけど見た目はメスみたいだから仕方がないし、こればかりは運命だと思ってあきらめるしか無さそうニャ」
「わかってるけどね、それでも何かなぁ」
「僕は別に構わないよ。自分に似合う服、着こなす事が出来る服なら構わないと思うけどなぁ」
「どうでもいいじゃニャいか。そんな些細なことで悩んでいたらストレスで全身の毛が抜けてしまうニャ」
加藤は少し離れたところで丸くなったまま、使い魔に餌をやっている。まあ、それはいいけど、不思議な光景というか、違和感だ。
あいつの使い魔は、事もあろうにカヤネズミだもの。小さくてかわいいしどこでも見かけるし、バッタやイナゴなどを食べてくれる益獣だけど、ネコがネズミを、ってね。
「そろそろ人化しておいた方がいいんじゃない? あと30分で予鈴だよ」
「あと30分もあるニャ」
「そう言えば、今日は佐奈先輩が来なかったね」
「校長室に連行されたまんまだニャ」
佐奈が校長室に呼び出しって、今朝の一件がばれたかな?
「そういえば、午後の授業は中止になるらしいニャ」
「へえ、なんでだろ」
「校庭にいつの間にか出来た穴とか、鎮守の森に異変があったとか…… だってさ」
「そういう事。細かい事は話せないけど、ね」
「えっ!?」
上の方から聞こえた声にびっくりして見上げた先には、地味な国防色に塗られた箒が浮いていた。正確には箒の両側に籠をつけて二人乗りにしたタイプだ。
「ありがとう、大尉。帰りは自力でなんとかするわ」
「はっ!」
母さんを下した箒はそのままどこかに飛んで行った。
「どゆこと? 今日は訳のわからない事でいっぱいだよぉ」
「ん?」
「瑞希の顔を見に来たのと、鎮守の森で異常な魔力が放出されたから、その調査もね」
「主席王宮魔導士の母さんが?」
「そう。調査は陛下の勅命でね。魔力の種類がナウパウムの塔のと同じようなタイプのものだと言えばわかるでしょ?」
それを聞いて、王国の戦力を総動員させたのか分かってきた…… ような気がした。
喪われた記録を見ている僕は知っている。塔の出現と同時に人類は滅亡寸前にまで追い込まれた事を……
「竜騎士が総出でこのあたりを警戒してるし、王宮騎士団はいつでも出動出来るような態勢で待機中。悪いけど今日は帰れそうもないから、ご飯は適当に食べてね」
そう言うと、母さんの姿は校舎の中に消えた。
午後の授業は予想通りに中止になりました。
ようやく1日目が終わりました。
のんびりし過ぎ、でしょうか。