第9話
軍用レーションの良いところは後片付けが楽な事だと思う。
さすがに空き缶までは無理だけど、包み紙や食器は地面に埋めて半年もすれば、土になってしまうという優れものだし。
ぶっちゃけ畑に埋めておけば、肥料にもなるという環境にやさしい材料なのだ。もっとも、こういう材料でも使わなければ、騎士団とかが大勢で動き回る場合、行った先々でゴミの山が出来かねないもの。
「おだやかな天気だなぁ」
あたたかい陽射し、風も吹いていない。
雲ひとつない青空には、竜騎士が空を舞い……
これは、ちょっと珍しいかも。
ざっと見渡した限りでも10頭ちかい竜が飛んでるし、中には滅多に見ることができない火竜も混ざっている。
「……竜騎士ならともかく、火竜が飛んでいなければ、か」
火竜は、まあ、読んで字の通りだし。
……まあ、いいか。
食べ終わったレーションの包みを片付けたら、ぼけーっとするだけです。
いつもなら来るはずの佐奈がいないのは、校長室に呼び出されたからです。
……名前も知らない校長先生、静かな昼休みをありがとうございます。今だけは心から尊敬します。
ごろりと仰向けに寝転ぶと、この時期にしては珍しく絹雲が流れてゆく。
入学式から半月も経っていないからだけど、中学生になったという気がしないなあ。
クラスの半分くらいが小学校からの持ち上がりから、こんなものかな……
ほのぼのしていたら、フェーリス・加藤があらわれた。
「やあ、天城クンじゃニャいか。相変わらず可愛いねぇ」
「グーで殴っていいか?」
「この姿を見ても、果たして殴れるかニャ?」
「う、っく… 卑怯なヤツ……」
彼は人化を解くと、大きな猫の姿になった。
純白の毛玉というかペルシャ猫を大きくしたような、とにかく、そんなものを想像してもらえばいいと思う。毛が長いのは本人に言わせれば、先祖返りの結果だそうだけど、ふかふかだし、これはこれで良いんじゃないかな。
「ま、いっか」
「そうそう。可愛い事は良い事ニャ。細かい事で腹を立てるのは人間の悪い癖ニャ」
そう言うと、加藤は身体を巻きつけてきた。いつもと違ってほのかにフローラルな香りがする。使っているシャンプーを変えたのかな。
「なんか良い匂いがする」
「花の匂いは嫌いじゃニャいけど、身体につける匂いじゃないニャ」
「シャンプー変えたの?」
「担任の先生に香水をかけられたせいで変な匂いになっただけニャ。『ネコとはいえ身だしなみは大切』とか言われたニャ」
……はあ、それは災難なことで。
ネコマタが出ました。
本来は人家で長く飼われているネコがネコマタになると言われています。
作中では名前だけを使いましたが、実際には獣人とかワーキャットです。