勇者と魔王の宿命
「踏ん張れ! ここを抜かれたら後ろの街がやられるぞ」
ここは防護壁に囲まれた街の外。ジリジリと照りつける日差しの中で板金鎧に身を固めた兵士たちが魔物の軍勢とぶつかりあっていた。
「しかし隊長、魔物の数が多すぎます!」
一人の兵士が弱音を吐く。
「敵さんも必死だってことだ。ここで耐えていれば必ずや勇者様が魔王を打倒してくださる。そうすればわれわれ人類の勝利だ」
「くそー、早くしてくれよ、勇者様」
まだ若い兵士もぼやきながら必死に応戦するが、数に押されて戦線はじわじわと街へ近づいていく。そんなとき、戦場に変化が起きた。
「隊長! 魔物たちが消えていきます」
「見ればわかる。言った通りだろう。勇者様がやってくれたんだ!」
「もう魔物に怯えて暮らすことはないんですね」
勇者たちは帰ってこなかったが、世界中から魔物が消えたことで魔王の討伐成功を疑うものはなかった。捜索隊が発見したのは勇者の使っていた剣だけであったが、人々は勇者を称え、語り継いだ。
そして魔物との戦いを覚えているものもいなくなり、勇者たちが伝説だけの存在となってさらに数百年がたったころに人々の間に噂が流れ出す。
「あれは絶対魔物だって。俺が動物を見間違うわけないだろう」
「たしかにお前は優秀な狩人だが、魔物は勇車さまたちが一掃したんだろう。信じられるものか」
最初は信じるもののほうが少ない噂話だったが、数十年の間に魔物の目撃情報は増えていった。そしてもはや誰も魔物の存在を疑わなくなったとき、決定的な事件が起こる。
「我は魔王である。魔族の戦力も十分に整ったゆえ、これより人類を掃討する」
魔王による人類への宣戦布告の後、魔物たちは隠れることもなく人類を攻め始めた。押されていた人類だったが、やがて希望が生まれる。
「勇者様が現れたって?」
「ああ。剣も魔法も達者で強大な魔物もあっさり打ち倒すらしいぜ。あれは伝説の勇者様を継ぐものだろうって評判だ」
そしてついに新たな勇者の存在は国が正式に認めることとなった。
「王家に伝わる勇者の剣は新たな勇者をその所有者として認めた。必ずや魔王を打ち倒すことであろう」
国中から精鋭が集められ勇者を中心とする魔王討伐隊が結成された。魔王を倒せる可能性があるのは勇者だけという判断から、本拠地の守りを固める魔物は勇者以外が引き受けてとにかく勇者を魔王のもとへ送りこむという作戦がたてられ、実行にうつされた。そして多数の精鋭が犠牲となりながらもついに勇者を魔王の目前まで送り込む。
「魔王よ!、人類のためにお前を倒すっ!」
「ふむ、おぬしが人類の代表ということだな。ではお相手しよう」
魔王と勇者の戦いはほとんど互角だった。魔法と剣技のどちらも優劣のつかない激しい戦いはいつまでも続くかと思われたが、それは不意に終わりを告げた。
「まさか、勇者の剣が折れるとは。魔王よ、お前の勝ちだ。だが人類すべてが負けたわけではないぞ。必ずや俺の意思を継いだ者が現れてお前を倒すだろう」
致命傷を負った勇者は息も絶え絶えながらまだ人類に対する希望を捨ててはいなかった。そんな勇者を見ながら魔王はこう告げる。
「最初に言ったであろう。これは我とおぬしが魔族と人類を代表する戦いであると。見るがいい」
魔王がそう言って呪文を唱えると空中にいくつもの映像が浮かび上がった。
『耐えるんだ。勇者様が魔王を倒すと信じて……なんだこれは。俺の身体が消えていく』
『ああ、あなた。一体何が起こっているというの』
『これはまさか、魔族の魔法による攻撃だとでもいうのか』
いくつもの光景の中で、人々が光となって消えていく。それを呆然と眺める勇者の身体もまた光に包まれようとしていた。
「前の戦いで敗れた魔族は一度この世から消え去った。今度は人類が敗れ、消え去るということだ。だが、このまま魔族の世が続くこともあるまい。何百年あとになるかわわからぬが、必ずまた人類が現れることであろうよ」
魔王の言葉を聞きながら、勇者の意識も消えていった。
『ボスキャラ倒したら魔物の群れが消え去る』ってのはありがちだけど、それって魔物に限定なのかなという思いつきがちょっと広がりそうだったんで書いてみた。
最初は先代勇者と魔王の戦いも書きかけたけど二回も勇者対魔王を書くのは冗長だろうとカット。




