101話 オズワルドの初仕事②
中央の一階に戻ると、クエスト屋が開いていた。
案内係の前の列に並び、威勢よく冒険者が捌いていくのを見学する。
「オズワルドさん、何並んでるのよ」
やっと回って来た番なのに、案内係に責められた。
「いつものようにクエストをやるように言われたんでね」
「だぁ! 違うでしょ。オズワルドさんはクエストを渡す方! ここに並ばなくてもいいの。ほら、カウンターの中に行きな!」
言われて初めて、立場が逆になっていることに気が付いた。
そうか、クエストを渡す方か。
カウンター内に入り、まずはクエスト屋所長に挨拶をした。ここの所長は冒険者上がりではないようだが、ここでも話は通っていた。
さて、と。とカウンター内を見回して、お目当ての物を見つけ出した。
こういう大きなクエスト屋では、待ち時間短縮のために希望するクエストを記入した書類を提出しておく。それを見て候補をパーティーに提案するのだ。
提出箱には、九枚のクエスト申込書が入っていた。そこから、新人を探し出す。
「このパーティーの仕事を引率したい」
クエスト案内の隙をついて、受付を捕まえると、すぐに適したクエストを二、三件見繕ってくれた。大体の打ち合わせをしてから、該当の新人たちを呼び出す。
ほどなくして、真新しい装備品を見に付けた新人三人がやってきた。肩には規則通り黄色いリボンが巻かれている。
黄色いリボンは、冒険者登録した新人が約一年つける規則になっている。
実は初心者がトラブルに巻き込まれる一番の理由が、経験のある冒険者にいいようにされることだ。初心者を経験者から守るために、黄色いリボンをつけて区別できるようにしている。
初心者に不利益をもたらした経験者にはペナルティが課される。
一般人でもできそうな面倒な仕事に対して文句を言う新人の三人を観察しながら、クエスト受注を待っている他の冒険者たちが目に入った。
黄色いリボンをつけているのに、明らかに初心者でないのがいるな。
ある程度の経験があれば、初心者かどうかは、リボンがなくても見分けがつく。
リボンは色あせて、よれよれだし、装備品に年季が入っている。同じ防具でも気崩し方が自然だ。何と言っても場慣れ感が違う。
黄色いリボンは、訓練に合格しなければ外せない。王都の訓練はそんなに厳しいのだろうか? これは、新人育成の疑問点だな。
「じゃあ、このクエストをやります」
まだ声が高いパーティーリーダーが、一枚のクエスト受注書を指さした。
ここからは、いつもの引率の仕事とそう変わらない。
こんなことをやるために冒険者になったのではないと愚痴るのを聞きながら、領民の困りごとをこなすという、冒険者の仕事の九割を占める仕事をするだけだ。
違いがあるとすれば、今日からは俺の雇い主が初心者ではなく、中央ってことだ。
余計な費用がかからずに、引率がつくのだから、彼らは幸運である。
したいわけでもないただの仕事をやって、夕暮れにはクエスト屋に帰って来た。
俺用の机で、週末に向けて気づいた問題点を書き出してから帰途についた。
日が暮れかけているのに、外は賑わっていた。買い物や外食を楽しむ人々の中へ踏み出したとき、どこからともなく声がかかった。
「オズワルドじゃないか!」
大きなだみ声に、周りの人まで振り向く。
人を縫って現れたのは、禿げ頭の背の高い男だった。歳は俺と同じくらい。
何より特徴的なのは顎からこめかみにかけての古傷。
傷を見て、一瞬にして記憶が蘇る。
「ラッセルか?」
忘れられない名前を口にした。十年以上会っていないが、この傷は忘れられない。何しろ、傷をつけたのは、俺なのだから。





