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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第13章 毛深き愛しいもの
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152話 オズワルドとピーター・ウェイン

 クエスト屋のクエスト掲示板の前で、冒険者相手に雑談をしている。


「今日は随分機嫌がいいですね」


 ブライスさんがカウンター内から声をかけてくる。


「ぽこの父親への土産が決まったからかね」


 ドン・ドラドへの土産選びは難しかった。

 ジョアンは、下手な物を渡すとその場で殺されると脅してくるし、ぽこが言うには大抵の物は持っているらしい。

 ぽこの誕生日祝いに贈って来た品を思い出す。

 龍が欲しがるような絹織物に、抜群にうまい白ワイン。一流品を知る相手への土産ってのは大変だ。


「何にしたんですか?」


「ヘレス酒だ」


「あぁ! それはいいですね」


 キュマ先生の記念会の関係で知ったヘレス酒は、この辺りの名産で、よそにはないという。

 日常使いのできない高価格で、酒好きのドン・ドラドにふさわしいといえよう。


 反対にあっさり決まったのが、レナの結婚祝いの品だ。

 魔術道具を贈ることにした。聞けばたぬきの里には魔術道具は珍しいらしい。

すぐに子供もできるだろうし、子育ての間、夜中に起きたときにぼんやり手元を照らすカンテラ型の道具だ。

 魔力がなくても使えるように、月光で魔力が溜められるのを選んだ。



   *



 今日はピーター・ウェインの秘書に呼ばれている。

おそらく退職日が決まり、その告知なのだろう。いい買い物ができたことだし、王都への未練は何もない。


 ジョアンが来てから騒がしく慌ただしい毎日を送っている。

 心の中で鼻歌を歌いながら、四階まであがる。


 ピーター・ウェインの秘書の前に立つと、秘書は奥の扉を開いた。


 王都に来てから一年と半年。一度も姿を見たことのないピーター・ウェインに会える。

 驚愕し、すぐには動けない。

 会ってみたかったのかどうかすら、もう忘れてしまっている。


「ピーター・ウェイン様がお待ちです」


 その声で、ようやく動き出す。


 薄暗い部屋に入ると、秋の日差しが大きな窓から差し込み、窓際に立つピーター・ウェインは逆光になっていた。

 想像以上に大きな身体で、俺くらいある。

 赤いマントに胸元には沢山の称号がついた騎士団の服。


 近づいていくと、少しずつ目が慣れて顔が見えた。


「あなたは!」


 忘れようのない顔がそこにはあった。

 爺さんを失くして故郷を旅立ち、冒険者になったばかりの俺を、影日向なく支えてくれた人物。

 盾としての在り方を文字通り叩きこんでくれたのは、他ならぬこの人だった。

 かつての名を呼ぼうとして思いとどまる。

 今、ピーター・ウェインとして有名である彼をかつての名で呼ぶのが適当であるのかわからない。何かしら事情があって違う名を名乗っているのだろう。


「久しぶりだな。オズワルド」


 声さえも懐かしい。


「目にかけていたお前が、パーティーを失ったと聞いたときにはつらかった」


 俺たち冒険者は師弟関係にあったとしても、いつまでも行動を共にはしない。

 彼は、彼自身のパーティーとクエストを求めて旅立った。

 旅先で俺の噂を聞いたのだろう。

 俺にとっては人生最大の汚点だが、広い世界の中ではよくある話の一つに過ぎない。

 そんな話を知っているというのは、俺のことをずっと気にかけてくれたということだ。


 胸の奥が痛いくらいに熱くなった。


「あれっきり何の噂も聞かなくなり、てっきり冒険者を辞めたんだと思っていたんだが、

あのお方からお前の名前を聞いたときには嬉しかったよ」


 差し出してくれた手を両手で握る。背を叩かれて、そのまま固い抱擁を交わした。


 あのお方――。

 インマーグでぽこがいなくなった春先に、国境を越えようとした貴族様のことだろう。

 インマーグのクエスト屋所長によれば、俺を王都に呼び寄せたのはあの貴族だった。

 それがいつの間にかピーター・ウェインがその役を代わっていたのだ。


「なんで最初に言ってくれなかったんですか?」


 最初の手紙で明かしてくれれば、よかったのに。

 そうすれば、もっと色んなことができた。


「俺の名前で呼んだら、お前は王都に来たか?」


「――。来ませんね。人をあてにはしませんから」


「ほらな」


 行動を見透かされて、悪戯が見つかった子供のような気持ちになる。そんな俺を見て笑った。


「名前が違うのは? 俺があなたの名を聞いたのは、先の戦争で星を授与されたのが最後です」


 ロンメルでは、優れた功績をあげた冒険者には星という称号が与えられる。大変名誉なことで各種待遇も変わってくる。何より冒険者界隈では一気に有名人となる。

 そのはずが、かつての名はそれきり聞かなかった。


「星の授与と同時に、貴族に養子に迎えられてね。騎士団に召し抱えられたってわけだ」


 胸には聖翼獅子団の団長を表す金色の翼の紋章と、伯爵位を示すイチゴと真珠が記された紋章がある。


 今の話で、何もかも納得がいった。


 彼は、貴族になってピーター・ウェインになった。そして、与えられたチャンスをつかみ取って、騎士団員から騎士団長まで駆け上った。

そこで俺の名を聞いた。

 インマーグでくすぶっている俺を呼び寄せて、自分と同じようなチャンスを何度もくれたのだ。

 ラッセルとの因縁を清算し、俺の得意な仕事で功績を上げさせ、騎士爵や校長の話を与えようとしてくれた。


「あなたって人は……」


 もし俺に家族同様の人は誰かと聞けば、それは彼に他ならない。

 損得抜きに俺を育ててくれる。


「これからどうするつもりだ?」


 なぜ辞退するのかとは聞かれなかった。

 権力を嫌うのも、面倒くさがりなのも、頑固なのもお見通しなのだ。


「結婚したい人がいまして」


「ぽこちゃんだな。おめでとう」


 王都でもぽこと二人で散々仕事をしてきているから、ぽこを知っているらしい。


「仕事はどうする?」


「温泉宿をやろうかなと」


 そりゃあいいと笑った。かつての笑顔のままだ。


「お前らしい選択だ。人情に篤くて誠実。そんなお前だからずっと気になっていたのだからな」


 頭を撫でられ、また抱擁を交わした。

 まるでガキに戻ったような気分になる。


 その後、俺は無事に中央での任を解かれた。


ここまでご愛読いただき、ありがとうございました。

やっと故郷に帰ります。

オズワルドとぽこは、どんな再スタートを切るのでしょうか。

次が最終部。最後まで一人と一匹を応援してください。


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