98話 ぽこと初図書館
王都に来て二日目。朝一番に中央図書館に出発した。
王都の建物は、どれもこれも大きくて立派だ。
アーチ状になった三連の窓だけで、大人四人が両手を広げたくらい大きい。直線と曲線が組み合わさった優美な装飾がなされた扉をくぐり、陽光が差す玄関ホールに入る。
玄関ホールは、天井に大きなシャンデリアが吊るされ、四つの階段が五階まで続いていた。階段の奥には扉がある。
「本を読むだけで、こんな大きさが必要か?」
小さく呟いただけなのに、高い天井に声が反射して予想外に大きく聞こえた。
「中央図書館へようこそ。何かお探しでしょうか?」
揃いの服を着た職員らしき人の中から、一人の女性が声をかけてくれる。
「本を探しているのだが、図書館ってもんが初めてでね」
初めてという言葉に、かなり驚かれたが、「中央図書館の特別展示室への入室許可書」を見せると、態度が一変した。
「私から我が国が誇る中央図書館をご説明させてください」
かしこまって一礼するところから始まった。
王都に来てから、中央のピーター・ウェインの手紙を見せることで、対応が変わるのはこれで二度目だ。
ピーター・ウェインという人物は、よほどの人物らしいと要注意リストに入れる。
「本は知識の泉です。優れた魔術や発見も、後世に残さなければ文化の発展につながりません。その役割を果たすのが本です」
「わかります。ぽこたちも文化の継承には苦労しています」
ぽこが腕組みをして深く頷いた。
「ですから、蔵書数と質は国家の権力の象徴とも言えます。中央図書館はロンメル国随一です」
「なるほど。だから、こんなに立派な建物なんだな」
手本のような笑顔の女性が案内板を手で示した。
「全ての本は内容によって区別され、整理されています。お探しの文献は、どういった内容でしょうか?」
「薬の本です」
「でしたら、四階の五十九部屋です」
指差されたところには「薬学」とある。
「本の持ち出しはできません。書き写しは可能です。では、参りましょう」
案内係の先導で、階段で四階へ上がる。
扉には全て番号が大きく記されていた。
五十九番を探し当て、案内人が扉を開けて中に入れてくれた。
薄暗く、インクの匂いがする。一面に並んだ棚に、びっしり本が並んでいる。
横倒しに置かれた本もあれば、縦に立てられた本もある。
分厚いのも薄いのも、一抱えもあるのもあれば、手のひらくらいのもある。
とにかく、本、本、本しかない。
「これほどの量とはな……」
見るだけで頭がくらくらしてくる。本は、一冊でも贅沢品だ。宝石や装飾品と同列に数えられる物がこれほど集まっているとなると、中央図書館を利用するのに、許可書が必要だというのも納得だ。
「どうやって探せばいいでしょうね」
ぽこと二人で本の量に圧倒されてしまった。
本の背表紙を眺めながら、奥まで歩いた。
題名を読むだけでもかなりの時間がかかる。
「探している本がどれかわかるかい?」
「全くわかりません」
目に着いた本を手に取ってめくれば、古い本独特の匂いがした。
細かい文字の隙間に図があるが、文字は読めても内容はわからなくて、すぐに本を閉じてしまった。
前途多難だ。
図書館に来れば、古の薬のことがわかると単純に考えていたが、見つけるのは大変な作業になるだろう。博識のウシュエが知らないことを調べるということがどういうことなのか想像するべきだった。
「薬学の本は約五千冊あり、さらに細かく分類され、著作者名で並んでいます」
案内係が、入口近くにある案内板の脇に立った。
生薬、創薬、薬の役割、原材料などに場所によって分けられていて、確かにわかりやすい。
「う~ん。どれにあたるでしょうね」
「本の題名か作者名はわかりますか?」
「いいえ、種族変更と薬についての本とだけしかわかりません」
順調だった案内が、ここにきて初めてよどんだ。
場違いなところにいる気がする。それで案内係を困らせている。
それでも、諦めるわけにはいかない。
俺は明日から中央での仕事が始まる。図書館で本を探すのは主にぽこの役割になるはずだ。
ぽこの気持ちはどうだろうか。
「読めばわかるか?」
「そうですね。ウシュエさんから教えて貰いましたから、読めば当たりハズレはわかると思います」
ぽこも諦めるつもりはないらしいと知って、ほっとする。
顎に手を置いて悩んでいた案内係が、少し待つように言って薬学の本の部屋から出て行った。
俺とぽこが顔を見合わせる。
「五千冊だそうだ」
「ほぇぇ。一日百冊調べたら、五十日かかりますね」
「一日百冊も調べられるかねぇ」
「気合です! やらねばできません!」
むんっと両拳を握って気合を入れるぽこに苦笑してしまう。
やはり、ぽこはぽこだ。目標を達成する行動力が高い。
どんな困難も、前向きなぽこといれば乗り越えられる気がする。
「お待たせいたしました。こちら、ジュリアンとルイスです」
案内係の後ろから二人の男性が現れた。二人共、ひょろひょろしており猫背だ。
「彼らは薬学の部屋の分類をしています」
「全ての本の内容は覚えていませんが、お役に立てるはずです」
「仕事の傍ら、僕たちが本探しをお手伝いします」
心強い味方の登場に、ぽこは飛び上がって喜んだ。
「ぽこっていいます。よろしくお願いいたします」
可愛らしいぽこの反応に、若い二人が微笑み、俺を見て顔をひきしめた。
俺は、ポーチに入れたピーター・ウェインの手紙のことを思い浮かべた。
余所者の俺たちに、図書館の職員が二人もつく? 金にもならない仕事なのに、どうなってるんだ?
動揺を抑えて、どうにか愛想笑いを浮かべた。





