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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第13章 毛深き愛しいもの
59/60

151話 ジョアンと買い物

「甘い!」


「苦いのに甘い、癖になる旨さだな!」


 ジョアンと二人で美味しさに身もだえしてしまう。

 今日は予定通り王都にしかないお店に買い物に出ているのだ。


 ジョアンが調べて来た小さな店には、行列ができていた。鐘一つ分並んで、ようやく店内に入り、いくつもある商品の説明ついでに試供品の小さな欠片を食べたところだ。


「これがショコラ!」


 飴より早く口の中でなめらかに溶けて、ほろ苦い後味が甘さを拭ってしまう。

 もっと食べたい。


 込み合う店内で、他のお客さんに押されながら、人と人の隙間から商品を選ぶ。


「自分のと、旦那様のと、レナの分でしょ。兄たちの分ってなると、すっごい数になっちゃう」


「ぽこの分は俺が買う。あと母ちゃんのを一箱。大袋は四袋買うぞ」


 ジョアンが見つけた大袋は、味が選べない代わりに大量に入っていて少しお得な価格になっている。


「ん~。でも、この箱も素敵だよね。迷う!」


「絶対、姪っこたちで争奪戦になるって」


「あ~、そうだね……」


 そもそも人間界の物を、里のたぬきは何でもありがたがる。素敵な箱入りにしたら、中のショコラだけでなく、箱をかけての骨肉の争いになるのは明らかだ。


「私も家の分は大袋にしようっと。そしたら一袋で足りるし」


「で、ぽこは何味にするわけ?」


 茶色、こげ茶色、ナッツ入り、果物入り、白いのと味だけでも迷うのに、今月限定味なんてのもあって、もう選ぶことはできない。


「どれを選んでも、違うのにすればよかったって思っちゃう。でも全部は買えないし」


 迷っていると、店員さんがさっきとは違う球型のショコラを出してくれた。


 あ!


 噛んだら、じゃりっとした砂糖の塊があり、その中から液体が出てきた。


 お酒だ! 旦那様の好きなヴァダーだ!


 酒精度が高いヴァダーは喉を焼くけれど、量がすごく少ないし、ショコラの味と一体化すると、さらにショコラが引き立つ。


「こちらは当店お勧めの十二年物のヴァダー入りのショコラでございます」


「これの一番大きい箱ください!」


 絶対、旦那様はこれがいい。

 大きな笑顔を浮かべる店員さんが、また次の味を出してくれる。

 その後、出される物全てに目が眩み、予定より多くのお土産を買ったのは言うまでもない。



 ショコラのお店だけじゃなく、籠を買って貰ったケーキのお店や、エミリアさんの恋人が務める洋品店、クローデン石で作られた美術品などを見て歩く。こうなったら考えながら歩くっていうより、通りを歩いていて目に付くお店全部に入るって感じ。


「こんなうまくて珍しいの王都しかないぜ! 話でしか聞いたとなかったのが見られて、末代迄の自慢なるな!」


「お店ごと持って帰りたいくらい!」


 さっき買ったショコラの大袋から一粒だけ失敬して、ジョアンと二人で頬張りながら歩く。


「おっさんとは、こういうのしなくていいのかよ?」


「本当そうだよね。ジョアンとじゃなくて旦那様と遊びたかったなぁ」


 わざとらしい声を出したら、ジョアンが大声で笑い始めた。


「このやろっ!」


 首に腕を回して、ぐりぐりとげんこつを頭にあててくる。ジョアンは力加減してるんだろうけど、結構痛い。

 突然離されて、見上げたらジョアンが真剣な顔になっていた。


「ぽこはさぁ、おっさんと話すときは丁寧に喋るだろ? そんなよそよそしい関係で長い結婚生活がつとまるか?」


「敬愛してるから丁寧に話すの」


「ケーアイ? 何だそりゃ」


 カカカとジョアンが笑う。


「何にせよ、たぬきと人間の違いに苦しむことになるって」


 首を振って否定する。

 こういう話はしたくない。

 せっかく、ジョアンと楽しい買い物をしていたのだ。


「二人がいい雰囲気になってるのは知ってる。でも、俺が諦める理由にはならない」


「里に帰ったら、パパに旦那様と結婚したいって言うつもり」


 ジョアンの顔が歪み、その後、鼻で笑われた。


「あいつは入り婿にはならんだろ? 話しになんねぇ」


「私が人間になるんだから、入り婿は関係ないでしょ?」


「レナから、おっさんがたぬきになるかもって聞いたぞ」


「それはない」


 即答にジョアンの目が一回り大きくなった。


 おばぁが知っている古の薬、それが安全だとはわからない。旦那様を私の我儘で危険な目にあわせられない。

 誰が何と言おうと、古の薬を飲むのは私だ。


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